中国による尖閣事件(領海侵犯)と同様のことがフィリピン領の南沙諸島で起こった。
違法操業する中国漁船を取り締まったフィリピン当局に対して中国は武装監視船を派遣してそれを阻止し、海上でにらみ合いをはじめた。フィリピンとアメリカとの合同演習に先駆けての嫌がらせだったのか、一連の中国の行動は手際よかったようだ。
結果としてフィリピンと対峙していた中国の監視船が引き上げた経緯を、石平氏は「フィリピンは中国に勝った!」と評した。そして、日本はこのフィリピンの姿勢を学ばなければならないとの提言である。こうした至極当然なことができないのが現在の日本政府なのだ。
-抜粋-
要するにあの巨大国の中国は、国力と軍事力が数段下のフィリビンの毅然とした姿勢の前で、屈辱の敗退を余儀なくされているのである。
毅然とした姿勢で自国の主権と領土を守ろうとするフィリピンから、日本は一体何を学ぶべきか。それはまさにわれわれ日本人が真剣に考えなければならない問題なのである。
石平(せきへい)のチャイナウォッチ 2012.04.24 No.178号 を転載
中国監視船が退散、フィリピンは中国に勝った!
フィリピン本島から西へ約200キロ離れた海域で、「スカーボロー礁」と呼ばれる小さな島がある。
歴史の経緯と地理的距離から見てれば、それはどう考えてもフィリピンの領土であるが、そこから数千キロも離れた海の向こうにある中国という国は何と、この島に対する自国の領有権を主張しているのである。
南シナ海での覇権樹立を目指す中国の海洋戦略の一環であるが、日本の尖閣諸島に対するそれとは同様、いかにも「やくざ国家」中国らしい横暴極まりのない領有権主張である。
そこで、今月の11日以来、まさにこの小さな島を舞台にして、フィリビン海軍の警備艇と中国の準武装化された漁業監視船がそれぞれ陣取りして睨み合うこととなった。
ことの発端は4月11日、比領海を侵犯し違法操業していた中国漁船8隻がスカーボロ礁でフィリピン海軍によって発見されたことである。比国海軍はさっそく領海侵犯の中国漁船に対する臨検を行ったが、その直後に、中国側の監視船2隻が現れ、同礁の領有権を主張しながら、フィリピン海軍の警備艇とのにらみあいを始めた。
自国の漁船が相手国の領海を侵犯して臨検された直後に、政府の監視艇が2隻も直ちに現れてくるとは、要するに今回の件は最初から中国側が仕込んできた計画的な領海侵犯でしかないと思うが、何らかの意図を持って、中国はフィリビンに喧嘩を仕かけてきたわけである。
しかし売られた喧嘩に断固として立ち向かったのはフィリピンの方である。
4月11日から始まった比中両国の対峙は、それから十数日間も続いた。この中で、中国側は12日に、すでにスカーボロー礁で陣取りしている艦船2隻に加え、新たに中国農業省漁政局の漁業監視船1隻を増派した。
比側は海軍のフリゲート艦を引き揚げたものの、沿岸警備隊の巡視船を派遣した。これで、海上でにらみ合う艦船は中国側3隻に対し比側1隻となった。
こうした中で、中国国内ではネットなどを中心にして「直ちに軍艦を派遣してフィリピンを懲らしめよう」との大合唱が巻き起こり、「対フィリピン開戦論」がマスコミでも堂々と語られるようになった。フィリピン在住の中国人も大量に引き上げたりして一触即発の雰囲気となっている。そして中国の解放軍の現役少将は「中国はお前らフィリピンに平和の最後のチャンスを与えているのだ」と言ってあからさまな恫喝を行ったのである。
つまり中国政府の容認下(あるいはその主導下)で、フィリピンにたいする軍事恫喝の世論動員が図られたのである。
しかしそれでもフィリピンは断固とした姿勢を取り続けている。
スカーボロー礁での両国の対峙が緊迫感を増している最中、フィリピン海軍は米国海軍との定期合同軍事演習「バリカタン」を4月16日に始めた。事前に中国が中止を求めてきたなかでの演習の断行である。要するにフィリピンは、演習の断行を持って中国に絶対降伏しないという断固たる意思を表明したのと同時に、アメリカを巻き込んで中国と対抗するというしたたかな戦略も展開しているのである。
そして4月21日、フィリピン海軍はついに、スカーボロ礁への2隻の軍艦を増派する発表した。
それは、今までの強硬姿勢からさらに一歩進んで、フィリピンは中国との軍事衝突も辞さない覚悟がすでに出来たことの兆候でもある。言ってみればそれは、中国からの軍事恫喝にたいするフィリビンの「逆恫喝」でもある。
こうした中で、突如にして態度を変えたのは中国の方である。
4月23日、中国駐フィリピン大使館のスポックマンは、スカーボロー礁で比国の警備艇と対峙していた中国の3隻の監視船のうちの2隻は22日にすでにこの海域から撤退した、と発表したのである。
スポックマンは「中国は緊迫した状況を緩和させるために撤退を決めた」との弁明を行っているが、前後の経緯からみれば、中国側の突如の撤退は、侵略と恫喝に断固として立ち向かうフィリピン軍の毅然とした姿勢のもたらした結果であることは明らかであろう。要するにあの巨大国の中国は、国力と軍事力が数段下のフィリビンの毅然とした姿勢の前で、屈辱の敗退を余儀なくされているのである。
この原稿を書いている4月22日現在、中国の監視船の1隻が依然としてスカーボロ礁で「踏ん張っている」ようであるが、それはもはや中国政府の面子を保つための象徴的な意味を持つ行動でしかない。今後の比中対峙は明らかに、中国側の敗退をもって決着をつけられようとしている。
毅然とした姿勢で自国の主権と領土を守ろうとするフィリピンから、日本は一体何を学ぶべきか。それはまさにわれわれ日本人が真剣に考えなければならない問題なのである。
( 石 平 )