鍛冶俊樹氏はかねてから日米同盟の崩壊状態を解説されていたが、今回の北朝鮮によるミサイル発射はそれを証明した。
実は日本にとって北朝鮮はたいした脅威ではない。日本にミサイルが着弾すれば当然ながら大規模な被害を受けるが、それによって日本が壊滅して失われるわけではない。恐喝程度のことはできるが、日本を壊滅できるほどの火力は持ち合わせていない。日本人にとって最も脅威なのは、国防ができない政府とそれをサポートしない日米同盟だ。数日前からわざわざ予告してくれたミサイル発射に対してこの程度である。奇襲攻撃を受けたら成されるままで、報復攻撃は大臣の指令がなければできないというお粗末な法体制だ。脅威は国内の体制にある。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 【4月16日号】 を転載

北朝鮮のブリキのおもちゃ

昨日、北朝鮮では金日成生誕100周年とかで、軍事パレードが挙行された。就任したばかりの金正恩第1書記が演説、親父の金正日はろくに演説も出来なかったのに較べて、棒読みとはいえ多少はマシか。
そして大陸間弾道弾(ICBM)らしき物が登場した。おそらく3日前の弾道弾実験に成功していたら、「人工衛星なんて嘘だよ、実体は米国まで届くICBMさ」と披露するつもりだったのだろう。
ところが実験は見事失敗。その後にこんなモノ、披露されたってブリキのおもちゃにしか見えない。金正恩坊や、これって恥の上塗りって言うのだよ。弾道弾技術者を処刑するのは当然だけど、このイベント企画担当者も即刻、処刑したほうがいいね。

さて日本にとってはもっけの幸いだが、喜んでばかりもいられない。特に気になるのはイランの代表団が来ていた点だ。イランは中距離弾道弾を完成しており、人工衛星打ち上げにも成功している。もともと北朝鮮の技術支援を受けて開発していたのだが、既に弾道弾技術では北朝鮮を凌駕した訳だ。
核爆弾開発については北朝鮮は成功しているがイランは成功していない。となると今後、北朝鮮が核爆弾、イランが弾道弾と開発を分担して核兵器開発が却って進展してしまう可能性がある。北朝鮮が準備しているといわれる次の核実験に注目が集まる所以である。

前号で日米の情報の共有の問題点を指摘しておいたが、現実のものとなった。
米国は13日、午前7時39分の北朝鮮の弾道弾発射の情報を日本に伝達したが、弾道弾失敗の情報は日本に伝達する前にマスコミに公表してしまった。おかげで防衛省は2階に上げられて梯子を外された形になり、大混乱となった。
田中防衛相は事前に米国に情報の共有を申し入れたが、米国は結果として拒否した格好となった。米国の裏切りはこれにとどまらない。北朝鮮の弾道弾発射は明確に国連決議に違反しており、これを強行した場合、制裁決議は当然であろう。
ところが米国は制裁どころか非難決議さえしようとしない。日本の働き掛けを敢えて無視し、北朝鮮を庇う中国の意向を尊重しようとしている。つまり日米同盟は北朝鮮の弾道弾開発を阻止する方向に機能していない。
前号で日米同盟は崩壊しているのではないかと述べたのは杞憂ではなかったのである。

 
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軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。
<著作>
戦争の常識 (文春新書)
エシュロンと情報戦争 (文春新書)
総図解 よくわかる第二次世界大戦―写真とイラストで歴史の流れと人物・事件が一気に読める