「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23(2011)年10月31日 通巻第3467号 を転載

イラクから米軍が完全撤兵すれば、中東は真空地帯になる
イランの脅威を前に、ペンタゴンは代案を計画、クェートに二万を駐留へ

オバマの選挙公約はイラクからの撤退である。
2011年12月で米軍はイラクから去る予定となっており、クェートには現在二万三千の部隊が兵站輸送(一部は米国へ、多くはアフガニスタンへ)の任務に就いている。

ペンタゴンは、イラクから全兵力が撤兵すれば、イラクはシーア派の天下になるばかりか湾岸一帯がイランからの脅威が増大し、安全保障上、由々しき問題となる。
このため「二万の兵力をクェートに残留させる。この兵隊を中東安定化の軍備とする」(NYタイムズ、10月30日)ことを計画している。

中東では米国を基軸として、サウジアラビア、クェート、バーレーン、カタール、UEA,オマーンの六カ国が湾岸強力協議会を結成している。
この組織の今後の機能強化が模索されている(脱線だが、クェートは湾岸戦争時の日本の貢献の返礼として、東日本大震災のとき400億円に匹敵する原油を無料で寄付してくれた)。

リビアは欧米が束になってカダフィを倒したが、おなじく民衆を虐殺するアサドのシリアに欧米は口先だけで介入しない。
アサドが倒れたらシリアもシーア派の政権となり、イランの影響力が強くなるからである。

バーレーンには第五艦隊が駐留しているため、民主化には冷淡、この国の政権が転覆すれば、同じくシーア派の天下となり下手をするとイランの保護領になる可能性が強い。
同様にヨルダン、イェーメンに対しても体制打倒の反体制運動には肩入れしない。理由は単純にして明快、米国の国益にそれほどの足しにならず、まして産油国でもない。介入するのは徒労と認識しているからだ。

▲情勢は刻々変化するが、背後で国際政治はすべてが連携

アフガニスタンで17名の米兵が「自爆テロ」ではなくロケット砲攻撃で死亡した。10月29日である。
驚くなかれ、これらロケット砲をどこから持ち込んだのか。ロケットランチャーはすべて中国製だった。
中国のタリバン支援が明らかとなった証拠だが、米国は中国を非難しない。中国に対してワシントンが腰を引いているのは米国債権の最大の保持者だから。

そこで欧州は新しい動きを始めた。
欧州安定化基金、ユーロ安定化基金の拡充を決めた欧州議会は、徹夜に近い懐疑をおえて、すぐにサルコジは北京へ電話をしている。「ついては安定化基金の拡充が決まったので、もうすこしカネをかしてくれないか」とせっついた。

すでに2010年春にギリシア危機が表面化して以来、中国はギリシア、スペイン、ポルトガル、イタリアに相当額を注ぎ込み、IMFのSDR債権も400億ドルを購入した。抜け目のない中国はギリシアで港湾利権を確保し、スペイン、イタリアでは中国企業が企業買収をしかけ、これらと取引であった。

しかし中国国内のネット世論では「スペインもイタリアもギリシアさえも、ひとりあたりのGDPは中国より多い。それなのに、なぜ中国が欧州にカネを増額して貸さなければならないか」と批判が渦巻きはじめており、中国政府としてはうかつな拙速では決められない。

情勢は刻々変化するが、背後で国際政治はすべてが連携している。

 
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