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【菅政権考】急浮上する「仙谷後継」説 を転載

アメリカの国家的進路を決定づけたのは「9・11」だが、日本の場合は「3・11」が国家再生の新たなキーワードとなった。

■避難所で死亡者続出

とはいえ、菅政権の対応はいかにもひどすぎる。だいたいが、被災後1カ月を過ぎても避難所の人たちにあれほどの過酷な暮らしを強いるというのは、先進国とはとうてい思えない。

体育館のようなところに寝て、水もない、トイレも使えない、食料も満足にならないというのでは、政治が機能しているとはいえない。

保養地の旅館や企業の研修施設などを借り上げて、人間らしい生活ができるように配慮するといったことがなぜ可能にならないのか。ここはいくらカネをかけてもいい局面だ。

巨大地震、巨大津波までは天災だが、避難所に行ってから病気で死ぬ人が続出するというのでは、これは人災だ。

福島原発の事故評価を最悪の「レベル7」に位置付けるなども、愚の骨頂だ。チェルノブイリ原発事故と同格であると自ら打ち出す必要があったのか。

これによって、風評被害は農産物から工業製品などにも及び、世界中で「ジャパン・フリー」(日本製を避ける)が横行することになる。

そこで、やはり政治の混迷をなんとかしてもらわないと、日本再生は困難だ。ここはだれが考えても救国大連立しかない。

■追い詰められた首相

菅直人首相(64)は自民党の谷垣禎一総裁(66)らに入閣を求めたが、すげなく断られた。自民党にとって、急速に人心が離れている菅政権に手を貸すことなど、できるわけがない。

ということで、いまや、菅首相の退陣が大連立の最大の条件となっている。

問題は、この首相が自らは辞めそうにないことだ。民主党幹部の1人は「なにせ、あの性格だから」とあきらめ顔だ。

「3・11」以後、この首相は完全に「イラ菅」を復活させてしまった。リーダーが精神的に追い詰められていることをあからさまにしてしまっては、組織、体制はもたない。

統一地方選前半戦で民主党は「惨敗」を喫した。ここで菅首相が敗北の責任を取る手はあった。

「3・11」対応の不手際で政権崩壊に追い込まれるよりもはるかにサマになっている。だが、この首相はその絶好のチャンスを逃してしまった。

統一選後半戦は4月24日投開票で、結果は前半戦とほぼ同様だろう。だが、菅首相には引責退陣を選択肢のひとつとする考えはなさそうだ。

■大連立への皮肉な役

そこで、目下ささやかれているのが、「誰が首相のクビに鈴をつけるのか」ということだ。「やはり、仙谷さんしかいない」という見方が大勢といっていい。

仙谷由人氏(65)は「尖閣」対応などをめぐり問責決議を受けた身だが、すでにそうしたキズは吹き飛んだ。

「3・11」によって、菅首相のたっての望みで党代表代行兼務のまま、官房副長官になった。

「首相にとっての精神安定剤」といわれたが、そこは立ち技も寝技もできる仙谷氏だ。いまや、首相に引導を渡す役回りが期待されている。なんとも皮肉な話ではある。

自民党などにパイプも太い仙谷氏だが、菅首相退陣-大連立成功のシナリオライターになることができれば、展開によっては「ポスト菅」に躍り出るかもしれない。

民主党にとっては、自民党に首相の座を委ねるよりもはるかにいい。

大連立は、復興のビジョンや増税を含めた財源措置を決めるなど時限的な特例措置となる。2年ちょっとで衆院議員の任期切れとなるのだから、特例大連立はせいぜい1年だ。

総選挙が近づけば、それぞれ選挙対応をはからなければならない。大連立解消の時点でどういう分かれ方をするか。それが政界再編の最終ラウンドとなる。

(拓殖大学大学院教授花岡信昭/ SANKEIEX PRESS