4月16日に最高裁が熊本県に対して「水俣病患者認定を義務付けた」判決によって大きく展開が変わったかに見えるが、今だから下せた判決だ。戦後復興から高度経済成長の社会背景ではこうした判決はできなかっただろう。すでに多くの被害者は他界しており、残された家族による訴えが多い。記録や資料などは当時の社会風潮によって隠蔽、偽造、破棄されているものが多く、公正な判断材料が少ないなかで被害者側の訴えを認めた判決に、問題の沈静化をもくろむ政治的意図が感じられる。
一部の被害者の訴えが認められたとはいえ、雪崩のように他の被害者の訴えが認定されるわけではない。水俣病問題の根は深い。

くまにちコム 2013年04月17日 を転載

知事が遺族らに謝罪 水俣病訴訟、最高裁で敗訴

水俣病の認定申請を棄却された女性の遺族が熊本県に認定するよう求めた訴訟の上告審で、県の敗訴が確定したのを受け蒲島郁夫知事は17日、県庁で原告の溝口秋生さん(81)=水俣市=と面会し、「裁判が長年にわたったこと、認定を棄却したことを心からおわび申し上げたい」と謝罪した。原告側は水俣病認定基準の見直しを要請したが、知事は「基準を知事が変えることはできない」と述べ、交渉は平行線に終わった。

知事は、溝口さんの亡くなった母チエさんを数日中に認定すると明言。「認定審査会にかけず私の一存で認定する。決定が揺らぐことはない」と述べた。5月1日にある水俣病犠牲者慰霊式の前に、水俣市の溝口さんの自宅を訪ね、チエさんの仏前でおわびをすると約束した。

認定基準の見直しについては「知事は法定受託事務の執行者。基準は国が示すもので、知事が変えることはできない」と答えた。

原告側は、チエさんと同様に、認定審査に必要な検診が終わらないまま亡くなった未検診死亡者の処分見直しも要求。県側は、3月末時点で462人の未検診死亡者のうち41人を認定、421人を棄却したと説明し、「今の時点で見直すとは答えられない」とした。

3月末時点で認定申請中の230人に、未検診死亡者が51人含まれることも説明。県がチエさんのカルテなどの病院調査を放置していたことから、原告側が調査の有無をただすと、県側は「生前受診していた医療機関を調べている」と述べた。

溝口さんと大阪府豊中市の女性の訴訟の弁護団は、不知火海沿岸住民の健康被害調査の実施や認定審査の在り方の見直しなどを求めた申し入れ書を提出。県側は1カ月をめどに順次回答するとした。面会終了後、溝口さんは「上告時と少しは違った。おふくろにも伝えたい」と語った。

また大阪高裁に審理差し戻しとなった豊中市の女性の訴訟について、知事は「判決内容を精査し、訴訟を継続するか取り下げるか対応を考えたい」と話した。(鎌倉尊信)

 


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