アメリカは太平洋の島嶼国家へ経済援助を含めた全面的な支援を表明した。これは中国をけん制したものだが、日本としては尖閣を含む日本の領海も含んだことなのか確認する必要があるだろう。太平洋の島嶼に覇権を及ぼす見返りに、尖閣を含む東シナ海は目こぼしするなどという密約をしてなければいいが。

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年9月3日 通巻第3743号 を転載

太平洋重視へ明確に方針転換?米国は対中国対決姿勢を演出
ヒラリーが太平洋の島嶼国家へ経済援助のリップ・サービス

オバマ外交が対中国姿勢を明確に転換させてから一年近くになった。
昨秋、オバマ大統領はハワイからメルボルンへ特別機を飛ばし、豪のダーウィンに2500名の海兵隊基地を置くとして中国を慌てさせ、つぎにクリントン国務長官をミャンマーへ派遣して、関係改善の扉を開いた。
スーチーとヒラリーが抱き合い、欺瞞の芝居の後、ミャンマーは国際社会へ復帰する。慌ててヤンゴンへ事務所開設をいそぐ日本商社、ホテル代が四倍になって、しかも満員で予約できないほどの盛況、他方でミャンマーと中国の軍事同盟的な密月時代が終わった。

こんどは南太平洋の島々にワシントンはするりと目を転じた。
過去十年近く、ミクロネシア、マイクロネシアの島嶼国家群は中国の札束攻勢が続き、米国が慌てていた地域でもある。バヌアツ、キリバス、フィージー等々。

ヒラリー・クリントン米国務長官は2012年8月31日、南太平洋の島嶼国クック諸島・アバルア(AVARUA)における「太平洋諸島フォーラム」(PIF)の席上、こう宣言したのだ。
「米国は太平洋地域を支配しようとする国家の対抗勢力として、地域に奉仕する」。
明らかに「太平洋地域を支配しようとする国家」とは米国の概念のなかでは自分たちではなく、中国を指す。

つづけてヒラリーは、名指しで中国をあげ、「太平洋における中国の行動が公正、透明であることを望む。中国が航行と海洋の安全に積極的な役割を果たし、地域の持続可能な発展に貢献し、地域に利する経済活動を追求することを期待する」

露骨に中国を批判したうえ、「米国は太平洋の海上交通路を一貫して守る」との強い決意を示した。
この発言、7日からウラジオストックで開催されるAPECの首脳陣に相当の影響力を持ったと考えられるだろう。

中国の軍事力が南太平洋の島々へ浸透しはじめたことに対して、経済援助が有力であることは誰もが知っている。
米国は「気候変動による海面上昇の危機に直面している島嶼諸国に対し、3200万ドル(約25億円)の経済支援」を明言したうえで、「21世紀は米国にとって太平洋の世紀だ」と明言した。
米中両国が期せずして戦略上重点地域である太平洋で本格的外交戦を展開し始めたのである。

慌てた中国は、同会議で「中国は島嶼諸国の良きパートナーであり、いかなる国(米国)とも張り合うつもりはない」と弱々しく反論した。

 
リンク
宮崎正弘の国際ニュース・早読み
宮崎正弘のホームページ

<宮崎正弘の最新刊>
『中国が世界経済を破綻させる』(清流出版、1680円)

<宮崎正弘のロングセラー>
『世界金融危機 彼らは「次」をどう読んでいるか?』 (双葉新書、840円)
『2012年、中国の真実』 (WAC BUNKO、930円)
『中国大暴走 高速鉄道に乗ってわかった衝撃の事実』 (文藝社、1365円)
『中国は日本人の財産を奪いつくす!』(徳間書店、1260円)
『オレ様国家 中国の常識』(新潮社、1470円)