「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23年(2011)8月19日 通巻第3401号 を転載
中国各地に頻発する暴動、抗議行動、社会擾乱はおさまるのか
胡錦涛、温家宝の「親民路線」は、これを逆に政治利用しているのでは?
中国貴州省の畢節という町で警官が女性の露天商に暴力をふるい、これを目撃していた住民がパトカーを横転させて火をつけ、騒擾が拡大、デモ隊と警官隊が衝突し、30人以上が負傷した。
これはつい最近(8月中旬)の社会争乱の典型的事件で、デモ隊は公共のビルに放火し、一時は無法状態に陥った。
8月14日に大連で行われた化学工場移転要求デモ、集会には3万の市民が参加し、ついには市トップの党委員会書記が登壇して移転を約束、これは民衆蜂起が成功したまれなケースで、以後、関係者の一部は「大連モデル」と呼んでいる。
大連モデル以前にも暴力的騒擾は無数に発生している。
六月だけでも広州市の出稼ぎ労働者数千人の乱がおこり、浙江省台州市、河南省鄭州市などへ大規模な争乱が伝播した。
毛沢東のゆかりの地、湖南省長沙でも市役所前で大規模な抗議集会が開催された。7月には新幹線事故。ネット世論が鉄道省への批判を「爆発」させた。遺族の抗議行動に当局は抑圧ではのぞまず補償金をつりあげて懐柔した。
中国のネット世論の暴走をすりかえるため当局は日本人公墓を反日カルトを使そうして、破壊させたり、空母を派手に航海させて中華主義を鼓舞しようとしたが、もはやみえみえのすり替えに民衆は立ち上がらず、全土で反日デモは皆無、かわって起きているのは反政府暴動寸前の反乱である。
「大連モデル」以後も各地の争乱は勃発、頻発、当局は抑止する能力がなくなったかのようにみえるのも、民衆は警察、公安を日頃から「敵視」してきたからで、彼らは現場から写メール、ツィッターなどで陸続と、こうした情報を香港に送りつける。
そこから世界へ発信されている。
8月6日、広州市で警官が女性露天商を殴打し、激怒した民衆が暴動を起こした。数千人規模の擾乱となった。
大連の騒ぎの夜、四川省成都では5000人が停電に抗議し幹線道路を封鎖、警官とにらみ合った。
当該地区は貧困地域のため、電力会社が電気を送らないことが頻発しており、気温40度のうえに水道も止まったことを差別だと住民が激怒したのだ。
かれらの多くは三峡ダム建設のため強制的に立ち退かされ、雀の涙ほどの補償金しか受け取っていない。
「国家事業のために犠牲になったのに、この差別は何だ」というわけだ。
山東省済南では警官の横暴な取り締まりに激怒した住民数千人がパトカーを壊し幹線道路を封鎖した(8月15日)
これらの暴動、抗議行動の基底に流れるのは「庶民の味方」ではない、警官、公安、治安関係者の横暴に住民が鬱積した不満の爆発チャンスを窺っているからである。
▲しかし反抗する側には組織も指導者もいない
8月16日、江西省蓮花県では化学工場から有毒物質が流出したと声高に叫び、当該工場の稼働停止を要求する数千人のデモが組織された。
この江西省萍郷市の金属工場からは有毒物質が大量に排出され、多くの住民が原因不明の病気になったり、老人が死亡している事実は以前から指摘されていた。
住民らは大連のニュースを聞いて、抗議を呼びかけ、たちまち数千人の住民が工場の出入り口をふさいで抗議した。
ならば、こうした抗議行動の流れは止まらないのか。
基本的には230万の軍、120万の武装人民警察、30万の公安ネット対策チーム、7200万の共産党員ネットワークを誇る支配側が、武力を用いての弾圧を開始すれば、民衆暴動など簡単にひねりつぶすことが可能である。
ましてや抗議する側に中核組織もなく、ぬきんでた指導者は不在、あやふやなネットという通信ツールだけが便りであるから、民衆蜂起が成功するなどという期待は抱かない方が無難だろう。
だが、中南海の権力闘争の舞台裏では別の思惑がある。
胡錦涛・温家宝の「親民路線」は、この騒擾を逆に利用して、ますます民衆の味方のポーズをとりつつ、新幹線事故以来孤立無援の「上海派」をばっさりと粛正することが可能だからだ。
ちかくまったく別のかたちに権力闘争の状況はうつると予測される。