鍛冶俊樹の軍事ジャーナル
第18号(8月19日) を転載

日本は領土を諦めるのか?

66年前の昨日すなわち8月18日にソ連軍(ロシア軍)は、我が日本の固有の領土である北方領土に侵攻した。8月15日は終戦の日であり日本はこの日に停戦したが、ソ連は日本が停戦したのを確認した後、北方領土に侵攻した。日本の守備隊は当初、停戦命令に従い武装解除しようとしたが、ソ連軍の悪辣非道の残虐行為を目の当たりにし、やむなく再び武器を取り圧倒的な兵力のソ連軍に立ち向かい壊滅した。この抵抗のおかげで、ソ連軍の計画(米軍が日本を占領する前に北海道まで占領しようとする)が挫折し、北海道はソ連占領下にならずにすんだのだ。

辻元清美はかつて国会で「日本が外国から攻められたのは元寇のときの2回だけ」と述べ、あたかも日本は侵略に備える必要が殆どないかのように主張したが、大間違いである。1945年8月15日の終戦以後、日本はソ連に侵略され北方領土を奪われ、韓国に竹島を占領されている。

北方領土を巡っては私も過去何回かロシア人と議論したことがある。酒を酌み交わしながらの話なのだが、彼らも日露交渉を裏で支えているような立場であるから、私としても本音を知りたかったのである。彼らが最後に言い出すのは決まって「日本が自国の領土であることに確信を持っているのなら何故奪い返しに来ないのか?自分のものなら躊躇なく奪い返す筈だ。奪い返そうとしないのは自国領である事に確信を持てないからではないのか」

これは単なる酒飲み話だけではないようで、1990年代にはもし自衛隊が進駐してくればロシア軍は抵抗もせずに撤退するしかなかったという。燃料不足で戦える状況になかったのだ。もちろんロシアが北方領土の軍備増強の意思を示した今となっては無理な話だろう。

さて最近、米国の名高い戦略理論家のルトワクが日本で「対中包囲網の一環として日本もロシアと結ぶべきだ。そのためには北方領土を諦めることも必要かもしれない」という趣旨の発言をしたという。ルトワクは米国共和党への影響力が強い人だから、現在の米国民主党政権がこの戦略を採用する公算は低い。しかし、共和党政権が成立した場合、米国が日本にこうした提案をしてくる可能性は十分ある。

米国の次期大統領選の隠れた争点は「対中包囲網をいかに形成するか?」である。1980年代、米国は日本、欧州に中国を加えて対ソ包囲網を形成しソ連を崩壊に追いやった。今度は対中包囲網を形成する番で、日本、インド、東南アジアに如何にロシアを加えるかが焦点となる。日本に領土で譲歩させてロシアの協力を得たいのが米国の本音だろう。

日本の保守派の中には、中国対策としてこうした米国の戦略に乗るべきだという意見が出てきている。だが考えて貰いたい。中国がめでたく崩壊すればおそらく国防費が干上がった米軍も日本から引き揚げる事になるだろう。そのとき北方領土と南樺太には増強されたロシア軍がいて、かつて占領する筈だった北海道を伺っている事になるのだ。

1941年の日ソ中立条約締結は日本外交の最大の間違いだった。再びあの愚を繰り返してはならない。

リンク
メルマガ: 鍛冶俊樹の軍事ジャーナル