石平(せきへい)のチャイナウォッチ 2011/05/27 を転載
ほころび始めた中国の「市場経済」 社会主義への反乱が始まった
中国の国家発展改革委員会は6日、家庭用品メーカーのユニリーバ(英蘭系)が「日用品の値上げは避けられない」と言いふらし、値上げ観測をあおったとして、同社に200万元(約2500万円)の罰金を科した。
それに先立ち中国国内の原材料価格高騰の影響を受け、同社は洗剤、せっけんなどの主要製品を5~15%値上げする方針をいったん固めたが、当局からの「行政指導」を受けて断念した経緯がある。
中国国内の原材料価格の高騰は明らかな事実だから、生産メーカーとして製品の値上げを考えるのはむしろ当たり前のことだし、企業たるものの当然の権利でもある。しかし中国ではそれは許されない。
政府は今、インフレの抑制を急務としているから、この方針に沿って露骨な行政干渉が横行しているのである。
実はこの数カ月間、人件費や物価が高騰して生産コストが上昇している中で、多くの内外企業がユニリーバと同様、値上げを予定していたが、当局によってことごとく封じ込められた。
今の中国で、どこかの企業が値上げを言い出した途端、経営トップが直ちに官庁に呼び出されて「行政指導」を受けるのが日常的な光景となっている。
この国の「市場経済」とは名ばかりのゴマカシなのである。が、ここまでくると、当局の理不尽な行政干渉に対して、一部の企業がついに反撃に出たのである。
本紙の関連記事でも報じているように、中国の浙江省や湖南省などの一部地域で深刻な電力不足が発生しているが、実はそれはまさに、市場原理を無視した政府の行政干渉に対する電力会社の反抗の結果である。
その経緯はこうである。発電の原料となる石炭の価格が暴騰して採算が合わなくなった電力企業は電力供給料金の値上げをしようとしたが、政府の行政命令によって止められ、その結果、電力企業が発電すればするほど赤字になるという現象が起きた。そこで多くの電力企業は、「設備の点検・修理」と称して発電機能の一部を停止させて赤字を減らそうとした。
13日の「中国青年報」が報じたところによると、
全国の各地では、半分以上の発電設備を「点検」に回す企業まで出ているという。まさに集団的反抗の広がりである。
発電企業にしてみれば、このような非常措置に踏み切るのは市場の原理に沿った当然の自己防衛策である。
しかしその結果、多くの地域で電力不足という深刻な事態が起きてしまい、中国経済と経済運営の責任者である当局の両方が苦しむことになっている。
力ずくで市場原理をねじ伏せようとする政府のやり方は完全に裏目に出たのである。
そして18日、政府はやむを得ず一部地域の電気料金の引き上げを認める方針を固めた、との新聞報道があった。もしそれが事実ならば、要するに中国の強大な独裁政府は、市場経済からの集団的反乱の前で敗退を余儀なくされた、ということになるのである。
中国の現体制の下では、それはまた、「天変地異」を予感させるほどの画期的な出来事ではないか。
今まで、中国の奇形的な「社会主義市場経済」は根本的な矛盾を内包しながらも何とかこの国の「繁栄」を支えてきたが、ここまでくると、それはいよいよボロを出して綻(ほころ)び始めている。
何しろ、「社会主義=独裁的政治体制」に対する「市場経済」の反乱がすでに始まっているからである。今後、政府当局と市場との攻防がさまざまな場面で展開していくとも予想できるが、その「全面対決」の時はいつやってくるのか、まさにこれからの「見どころ」である。
( 石 平 )