「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」平成23年(2011)1月6日(木曜日)通巻3181号を転載

スーダン南部が独立すると、一番困るのは中国というパズル
住民投票は九日から。大半が独立を志向と予測され、各国は選挙監視団を派遣

9日、スーダン南部では「独立か、否か」の住民投票が開始され、十五日まで行われる。国際メディアはスーダン南部の独立を視野に入れており、つぎのシナリオに備えている。すでに南部大統領が存在している。

中国も電光石火のごとく選挙監視団を派遣した。
ソマリア沖への軍艦派遣以来、珍しくはなくなったが中国の国際協力の現れ、と国際社会が評価する。
『グローバル・タイムズ』(人民日報系「環球時報」の英語版)は11年1月5日付にこう報じている。
「正義と自由と透明性と平和の雰囲気の中でスーダンの住民投票が実施されることを中国は希望し、あらゆる方面で安定性がスーダンに訪れると確信している」(人民解放軍スポークスマン)。

嘘付け!
「スーダンが南北に別れた場合、日量48万バーレルものスーダン石油の65%の権益をにぎる中国はたいそうな被害と困惑に直面する。スーダンの石油は南部との国境で採掘され、それを1500キロのパイプラインで紅海に面する、輸出港のポート・オブ・スーダンへ運ぶ。
半分は中国へ向かい、残りは中国の企業が海外へ売却する。

スーダン北部はアラブ系バシル政権のお膝元、支配政党はNCP(国家議会党)、スーダン南部はキリスト教の多い土着農耕民族で有力政党はSPLM(スーダン人民解放運動)だ。もともとふたつの国なのである。

▼スーダン利権はすべてが石油がらみ

石油はバシル政権の命綱、そして中国国有企業シノペックとCNPC(中国国有石油化工集団)の大動脈である。
原油掘削サイトから長い長いパイプラインが輸出港までつづき、この北部をバシル政権はおさえる。このパイプライン防衛は中国軍人がエンジニアに仮装して守っているといわれる。スーダン在住中国人は登録されているだけで二万四千人。

「もしスーダン南部が独立となると石油ビジネスは北と南でどのように配分するのか」が中国企業にとって目下最大の悩みのタネである。

ヒラリー・クリントン米国務長官は「(スーダン南部の独立は)時限爆弾の爆発を待つ状況」と比喩したが、中国は「待機そして注視」という政策姿勢を採り、ひたすら動きを見極めようと躍起である。
対スーダン戦略に関していえば中国は伝来の「不干渉」原則を貫いているとは考えられない変化がある。

第一に中国企業の海外進出志向と密接に絡む。
世界中に資源をもとめて中国企業(といっても民間ではなく国有企業が殆ど)は、累積1780億ドルを直接投資、資源の鉱区を抑えてきた。
イデオロギーや革命の輸出ではなく、企業権益を防衛するのが最大の目的となり、姿勢が変化した。
資源外交に収斂されるようになったのが、近年の中国外交の特徴である。

第二に進出にともなって海外へでた労働者が、世界のあちこちで誘拐、殺害の対象となり、これも不干渉姿勢を揺らがせる要員となる。
国際機関との協調、そのための支援が欠かせなくなり、反面で政治インテリジェンスからリスク管理の経済情報収集活動が盛んとなる。したがって現在の有様はといえば、中国外交が多層化してゆく過程である。

第三にダルフール虐殺で世界に悪名を轟かせるバシル政権を中国は支援しているため国際的は批判に曝され続けた。このため非難をかわす目的もあり、中国がバシル政権に圧力をかけAU軍のダルフール駐留を認めさせる。
これは従来の中国外交では考えられなかった姿勢の変化であり、見逃せないポイントである。

第四に中国外交ブレーンのあいだには不干渉原則をやめて「創造的干渉」或いは「条件付き干渉」という新しいタームがにぎわうようになり、次の時代を模索していることがわかる。

▼その日に備える中国外交の柔軟性

とはいえ、スーダン南部が独立するとなると、ただちに直面するのは中国政府とスーダン政府の協定の見直しだろう。
スーダン南部は95%の歳入が石油による。
反対にパイプラインは98%が北部スーダンに運ばれ、そのうちの65%が中国の取り分である。

もし契約改定となれば、北部有利な現行の協定は大幅に見直されるのは必定、南部有利の契約更新となればスーダン北部は容易には首肯せず、膠着状態が続く怖れがある。

中国は次の手を打った。
まずSPLMのサルバ・キール(南部大統領)を二回、北京に招待した上で、南部の『首都』ジュバに中国大使館領事館事務所を開設した(08年9月)。

さらに意表を突くシナリオを検討中といわれる。
それはスーダン南部と国境を接するケニヤにパイプラインを敷設し、石油を南へ迂回させてケニアのルーナ港から輸出するというバシル政権が訊いたら意気消沈する腹案も用意しているという。