眞悟の時事通信(平成25年6月17日号) を転載

経済ではない、外交だ

横浜市戸塚区の佐藤忠士氏が、「F機関、アジア解放を夢みた特務機関長の手記、藤原岩市」という本を送ってくださった。そして、この本を手に取ったとき、やはり、書いておこうと思った。それは、安倍内閣の外交である。

「F機関」とは、大東亜戦争中に、陸軍中野学校出身者やマレーのハリマオなどの少数精鋭を率いてマレー、スマトラそしてインドの独立を促す活動を展開し、インド独立の英雄であるチャンドラ・ボース迎え入れた藤原岩市少佐の創った機関である。

この「F機関」は、昭和十六年十一月十五日に大本営政府連絡会議で決定された我が国の基本戦略である「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」を実現するために行動した。
その基本戦略とは、
東亜作戦・・・極東の米英蘭の占拠する資源地帯の制圧による自存自衛体制の確立、つまり今のアセアン地帯の制圧
西亜作戦・・・インド洋制圧によるインド独立と英の屈服を計り、同時に援助ルート切断による蒋政権の屈服を計る

「F機関」は大東亜共栄圏の夢を愚直に実行し??の作戦地域の民族独立を実現せんとしたのである。そして、この東亜作戦は劇的に成功し、シンガポールは昭和十七年二月十五日に陥落する。ところが、西亜作戦は海軍が勝手にインド洋から出てミッドウェーに行ってしまったのでインド洋制圧はならず、中途半端に終わる。

しかし、この西亜作戦が成功してインド洋を我が国が制圧しておれば、「F機関」の目的通りインドはイギリスから独立する。そして共にインドから送られる物資に頼っていた西のイギリスと東の蒋介石政権は、ドイツと日本に屈服していたのである。つまり、大東亜戦争に、我が国は負けなかったのだ。西亜作戦を貫徹しなかったことが、大東亜戦争最大の敗因だ。

我が国には、「戦略」がないという人が多いが、東条内閣が大本営政府連絡会議で決定した「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」こそ我が国を勝利に導くもっとも優れた戦略であった。仮に、この戦略が、その時イギリスの首相チャーチルの耳に入ったならば、チャーチルは即座にイギリスの敗北を悟ったはずだ。

そこで、安倍内閣の外交を振り返ってほしい。
安倍内閣は、「腹案」通り、東亜作戦の対象地域から西亜作戦の対象地域に外交を展開してきたと思われないか。特に、ミャンマー訪問は、十五年前からたびたびミャンマーを訪れて、ミャンマーの戦略的重要性を指摘してきた私にとって、よくやってくれたと感慨深かったのである。

現在、安倍総理は、サミットの開催地であるイギリスのアイルランドに入っているが、その前に東欧四カ国を訪問し普遍的価値の共有と連携を確認している。

以上の、安倍総理の訪問地である東亜、西亜そして東欧の我が国に関する共通点は何か。
それは、二十世紀初頭の日露戦争に日本が勝利したことに覚醒した地域だということである。東亜・西亜は、日本の勝利を知って、自分たちも白人の植民地支配から脱却できると思い始め、東欧はロシアのくびきからの脱却を模索し始めた。しかも、東亜と西亜地域では、その四十年後に自分たちのみている前で日本軍が米・英・蘭の軍隊を打ち破ったのである。

この日本に対する強烈な歴史の記憶をもっている地域を安倍総理が訪問してきたということは、近い将来劇的な効果を揚げるであろう。この安倍内閣の外交は、麻生外務大臣が提唱したアセアンからインドを経る繁栄の弧に発するものであるが、ここは、つとに、明治以来の日本の歩みが友邦として指し示してきた地域であり、加えて東条内閣の「腹案」とその劇的な実行の遺産によって、実は日本の真に連携すべき国々となっていたのである。

従って、「日中友好」、「日韓友好」そして「日朝友好」、つまりあのルーピー(アホ)が言っていた「東アジア共同体」ではなく、政権獲得後直ちに、このアセアンからインドそして東欧を外交の対象地域とした安倍総理は、「外交における戦後からの脱却を果たしつつある」と評価できるのである。
この地域との連携は、我が国の国際的存在感の源泉である。

安倍内閣になってアベノミクスなどの言葉で代表される経済の成果だけが強調されているが、あれほど馬鹿馬鹿しい総理大臣が三人も続いた後ならば、誰が総理になっても、国民は明るくなったと感じるものだ。そして普通のことをいえば、ご祝儀相場で株は上がり円は下がる。

しかし、安倍内閣の六カ月間の外交は、経済以上に安倍総理の最大の特徴であり功績である。何故なら、安倍外交は、さりげなくやっているが、戦後から脱却した国家戦略をもっているからである。株の上がり下がりや円の高い低いは、国際的投機の動きに左右される。従って、余り一喜一憂せずに、国家の存立に直結してくる「外交」に関心を高めるようにしたいものだ。
従って、本日の題を「経済ではない、外交だ」とした。

 


 
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