やはり今回の飯島参与の訪朝は、北朝鮮にうまく利用されて終わったようだ。
付き人もなしに、大きな荷物を抱え、フラフラしながら飛行機から降りてくる姿が印象的だった。極秘であるが故のことだろう。その映像からはじまり、北朝鮮のNO2との会見など、映像を大々的に報じられた。その後まもなく政治局長が支那に行った。この際にも、日本政府の要人がわざわざ北朝鮮に来たことを、話の種にしただろう。
飯島氏はテレビのインタビューで、「私の役目は終わった」といった。あらゆる意味で、終わったのだろう。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第106号 を転載

金正恩は妥協した。

飯島勲内閣参与の訪朝についてチャンネル桜で解説した。
http://www.youtube.com/watch?v=0wEiGxtHSG8

以下、概要を記すと
飯島氏は14日に訪朝し16日に北朝鮮ナンバー2の金永南委員長と会談し17日に出国した。北朝鮮が総理の側近を突然呼び出した以上、大胆な提案があるのではないかと期待されたが、結局それはなかった。
では何故、北朝鮮は飯島氏を呼び出して内外に喧伝したのか?その真意は何だったのか?

米空母ニミッツは11日に韓国釜山に入港し13日に日本海で日米韓の合同訓練に参加し17日に日本海を離れている。飯島氏の訪朝とニミッツの日本海入りとが重なっている事に注目して貰いたい。
北朝鮮は、ニミッツが釜山に入港するかまだ明らかになっていない5日の段階で、既にニミッツ入港を非難していた。ニミッツの動向を早くから意識していた訳だ。つまりニミッツが北朝鮮を攻撃するかも知れないと恐れていたのである。
従って、この時期に飯島氏を呼び出したのはニミッツの攻撃を封ずる狙いがあったと推測できる。米国の同盟国である日本の政府高官が交渉している最中に米空母が北朝鮮を攻撃する筈はなく安全が確保されると読んだのであろう。

北朝鮮のこの反応は明らかに過剰反応である。被害妄想と言ってもいいかも知れない。米国は国連決議に基づいて対北制裁を強化しており、国連決議は非軍事的措置を謳っている。米国が今の段階で北朝鮮を突然攻撃する可能性はないと分析するのが軍事的常識である。
つまり北朝鮮は正しい軍事分析ができない状態になっている。これは金正恩第1書記に軍部が正しい分析を提示できないことを意味する。言いかえれば金正恩と軍部の間に隙間風が吹いている。

おそらく軍部は中朝軍事同盟の経緯から中国の意向を尊重すべきだと考えており、対中独立意識の旺盛な金正恩との間に意見の対立があろう。

上記の趣旨で解説した番組は21日に収録され22日に放送された。23日に北朝鮮軍の崔竜海総政治局長が訪中して「中国の提案を受け入れ関係各国と対話を展開したい」旨表明した。もしこれが金正恩の真意だとすれば、金正恩は妥協した事になる。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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