「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25年(2013)5月20日 通巻第3945号

「安倍首相は『大宰相』の可能性――右傾化批判一転、米で好評価の兆し」(産経)
英国メディアは安倍首相を「スーパーマン」とYENマークで表紙に

産経新聞が伝えた(5月20日付け)。
「安倍首相、大宰相の可能性――右傾化批判一転、米で好評価の兆し」
米国が懸念するのはリベラルなメディアが繰り返し「ナショナリスト」をいう語いを多用して安倍首相を戦前の軍部と同レベルの印象を与える情報操作だが、背後に特定のくにぐにのマスコミ工作がある。とくに米国は依然として日本を属国もしくは保護領扱いしているので、パワーの突出を好まない。

「ナショナリスト」は日本ではやや肯定的に使われるが、欧米ではやや否定的なニュアンスがある。
ならば適切なる語いに何を用いたほうが良いか?
「愛国者」である。
ところが日本では愛国者が否定的意味合いを含めて用いられるため、欧米と日本に認識のギャップが生じている。

さて英誌『エコノミスト』(2013年5月18日号)の表紙デザインをみて驚かされた。
空飛ぶ謎の飛行物体を見て、「あ、鳥だ」「いや飛行機だ」「違うあれはスーパーマンだ」という定番の科白が「あれは日本だ」と置き換えられ、スーパーマンのコスチームを着た安倍首相の胸元、「S」のマークがYENの[Y]である。
そしてこういう説明がある。「アベノミクス、ナショナリズム、そして中国への挑戦」。

同誌はかく曰く。
「六年前に石もって追われるかの如く退陣した安倍と、いま就任以来数ヶ月の安倍とは別人である」。
「安倍は健康を回復し、日本の国際的地位を回復するプログラムを実行に移し、株価は55%回復し、GDP成長は第一四半期に3.5%上昇し、内閣支持率はなんと70%だ」
「かれの試みはいまだ道半ばだが、安倍は大宰相に確実になるだろう。

驚き桃の木、あの辛口の対日論調で有名だったエコノミストが評価を前向きに変えているのだ。

しかし、将来の疎外要因をつけくわえると、として同誌は追加分析を行う。
「アベノミクスにとって二つの懸念材料は第二四半期の経済成長が低下し、消費税の導入を遅延せざるを得ない状況の到来と、TPPをめぐっての電力、製薬、農業団体、とりわけロビィからの妨害である。中国との確執は、尖閣から沖縄へと論議が発展し、日本は自衛隊を国防軍に呼び換えようと安倍が呼びかけ、また閣僚の靖国参拝が続いているが、こうした日本ではまだ少数派の対米不満組と中国への強い姿勢の維持をする主張が(国際的には)ナショナリストと認識されることであり、それよりも経済の繁栄を確固たるものとするべきであろう」

▼景況感の好転は何によってもたらされたのか?

たしかに経済方面での安倍政権の政策発動による株価の躍進ぶりは現時点では高く評価できる。
なぜ日本が急速に回復軌道に復帰できたかは、第一に安倍政権誕生という明るい展望のもと、株高、円安、外国人投資家の市場への本格参入であるが、気分が陽転して経緯がなによりも重要である。

安倍は最初に「財政出動」で10兆円余の補正予算を組んで、景気を刺激した。つぎに『三本の矢』を発表したが、同時に『失われた二十年』の元凶とされてきた日銀総裁を入れ替え、成長型重視、金融緩和に踏み切らせた。

英誌『エコノミスト』は、この間の分析を詳細に書いており、安倍の『三本の矢』なるは、藩祖・毛利元就の遺訓であり、三人の兄弟は堅く団結せよという毛利家の家訓となって明治維新へと繋がった。
安倍の選挙区である長州は日本歴史の重要なタイミングで重大な役割を果たしており、安倍首相は、そのことを明らかに踏まえている」。
したがって安倍がチェアをつとめるいくつかの諮問委員会の決定に注目するのである。

しかし「日本のかかえる財政問題は既にGDPの240%に達する累積赤字、しかも医療保険、介護、年金がGDPの26.1%、すなわち124兆円にも膨れあがっており、これからは増税と予算削減というディレンマの克服が政治課題となるだろう。老齢化する人口動態の一方で、消費税率を2014年から15年にかけて10%に倍増する二重の難題がある」

安倍の言う『戦後レジームの克服』は『強い日本』「美しい日本を取り戻せ」という政治スローガンに結実し、国防軍、憲法改正、など愛国的情念が吹き出たのは安倍の個性、性格、そして祖父岸信介からの伝統でもあるが、主として中国の勃興と挑戦が原因でもあり、これらのテーマへ安倍政権が挑戦するのは参議院で自民党が圧勝してからのことである」としてエコノミスト誌は締めくくった。

 


 
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