鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【5月11日号】 を転載
北朝鮮で22歳の女性警官が最高の勲章を授与されたというニュースについて、昨日の夕刊フジで筆者がコメントした。下記参照
http://www.zakzak.co.jp/society/・・・・・

上記の記事でも触れたが、勲章が乱発されるのは決まって首都が陥落する寸前の現象だ。つまり落城間近には敵のスパイが大量に潜入し買収工作を始めるから、敵に寝返る将兵が続出する。そこで勲章や賞金、昇進を乱発して味方を引き留めようとするのである。

かつてフィリピンでマルコス政権が崩壊する直前、あるいはベトナム戦争末期、サイゴン陥落の寸前に似た様な現象があった。古くは古代ローマ時代、アントニーとクレオパトラの軍がオクタビアヌスの軍と対峙して劣勢を強いられていた時に似た事例がある。

敗色の濃い状況下で一人の若い将校が抜群の戦果を挙げた。喜んだアントニーとクレオパトラは黄金の鎧を贈って、この将校の勇敢さを讃えた。この将校はその夜のうちに黄金の鎧を着たまま脱走し敵に寝返ったと言う。

北朝鮮の軍隊はとうの昔に配給が途絶えている。地方に配備されている部隊は農作業に勤しんでいる。だがそこに老獪な中国のスパイの手が伸びる。その地方の利権を融通してくれれば食糧を支援しようと現地指揮官に持ち掛ける。指揮官にもはや選択の余地はあるまい。

かくて地方の部隊の大半は中国傘下になっている。金正恩の傘下にあるのは今や首都平壌だけである。ところが中国が北朝鮮の銀行口座を閉鎖し始めた。実は金正恩政権そのものが中国の支援で成立しているから、口座を閉鎖されれば首都平壌を養う事すら困難になる。

当然、中国のスパイが潜入して平壌の軍人や政府職員に買収工作を仕掛けている。金正恩も味方を繋ぎ止めるのに必死にならざるを得まい。アントニーとクレオパトラの運命がどうなったか?シェイクスピアを読まずとも歴史年表を見れば一目でわかる。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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