4月23日早朝、私は尖閣列島「魚釣島」を眺めていたが、前夜から待ち構えていた支那公船の追尾によって海上警備艇から非難を強いられ、全速力で石垣島に引き返すという屈辱を味わった。
その背景には、私たちの漁船が尖閣に向かったというだけではなく、アメリカの対中姿勢が大きく影響していたらしい。

いずれにしても、日本が尖閣諸島を実効支配できていないことを露呈したのだ。そのわずか一週間後に「主権回復の日」などという的外れなお祭りをしている政府に責任感や危機感があるのか、疑ってしまう。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第103号

米中接近せず

4月23日中国空軍の戦闘機J11等延べ40機が尖閣領空に接近し、航空自衛隊F15が繰り返し緊急発進する事態になっていた(産経新聞4月27日)。
この日は中国公船8隻が尖閣領海に侵入しており、日本の一部マスコミは日本の閣僚の靖国参拝への中国の反発として報道しているが、中国外務省の報道官は26日に記者会見で「尖閣は核心的利益」と明言しており、靖国参拝への反発と見るのは正しくなかろう。
この記者会見では米軍統合参謀本部議長デンプシー大将の訪中・訪日に関連して「尖閣は核心的利益」という今まで非公式に使われても公式には断言されていなかった言明を敢えてしていることから、22日のデンプシーと中国軍高官との会談との関連で見るべきだろう。

デンプシーは25日に横田基地で米兵を前に「もうこれ以上、海外の米軍は削減されない」と発言している。オバマ政権2期目は「リバランス」を掲げ対中軟化を示唆していたから、中国は米軍が東シナ海における中国覇権を承認することを期待したに違いなく、デンプシーはそれを拒否したと推測できる。
つまり23日の尖閣侵入は中国の失望の表明だったのだ。日本ではニクソンショック以来の米中接近があるのではないかと懸念されていたが、米国はその選択をしなかったといえるだろう。

1月12日号の当メルマガで、1月10日に中国空軍のJ10戦闘機等10機が尖閣領空接近したのに対して、「どうしてJ10なんて欠陥機しか来ないのか?。新鋭機J11が出て来ない所を見ると、J11はそれ以上のポンコツなんだろう」みたいな趣旨で書いた。
これを読んだ空軍出身の許其亮・中国軍事副主席が猛り狂って遂にJ11がやって来た、と言う訳でもなかろうが、誰が見たって新鋭機が出て来ないのはやっぱり変だろう。致命的な欠陥を疑われても仕方がない。
いわばその疑念を打ち消すためにJ11がようやく出て来たと言った所か。その間なんと3ヶ月、ロシアに法外な改修費を支払って修理して貰って何とか飛ぶ機体になったのだろう。延べ40機というが、同じ飛行機が尖閣周辺と飛行場の間を何度も往復したということだ。

尖閣に近づいて空自機が来ると、慌てて姿を消し、空自機が帰還するとまた近づいて来る。ロシア機が領空接近するときは、こんな泥棒猫みたいな真似はしない。空自機を観察するように堂々とやってくる。
飛行機同士が接近すれば、相手の技量などパイロットには一目でわかる。中国機が慌てて姿を消すのは、とても見せられるような技量ではないからである。「J11が欠陥機ではないか?」と言う疑念は解消どころか却って深まったと言って良い。

とはいうものの、中国海洋警察の公船と空軍機が連携した事実は大きい。従来のように海洋警察船だけならば、これをどうしても追い払いたければ自衛隊に海上警備行動を発令すればよかった。これは野田内閣のときに現に検討されている。だが軍との連携が明らかになった以上、今後は海上警備行動と同時に防衛出動待機命令の発令を検討する必要があろう。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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