鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第89号 を転載

安倍内閣と佐藤政権

賀正、本年もよろしくお願い奉る。

昔から「一富士、二鷹、三なすび」にちなんだ初夢をみると吉兆といわれてきたが、マスコミによると安倍総理はタカ派なのだそうで、安倍総理を初夢に見た人は、まことに春から縁起がいい訳だ。

安倍総理ご自身がどんな初夢を見たかは知る由もないが、小生初詣に行って安倍政権の命運に思いを巡らして(それは同時に日本の命運でもある)、思い当たったのが佐藤政権であった。
故・佐藤栄作氏は安倍総理の大叔父だが、1964年から1972年まで総理大臣を務めた。眉目秀麗で恰幅も良く声も良かったから演説などでは聴衆を魅了したし国際会議などでも見劣りがしなかった。

マスコミは今も昔も自民党嫌いで、当時も佐藤政権をコテンパンに攻撃したから支持率はあまり高くないのだが、国民の底堅い支持を得て7年8カ月(戦後最長)にわたり政権を維持した。
安倍総理が祖父の岸信介元総理より、佐藤元総理に似ているような気がするのは小生だけであろうか。

それは風貌だけでなく性格についても当てはまるかもしれない。岸総理は頭脳明晰、優秀すぎて周りが馬鹿に見えて仕方がないという性格だったから、その分摩擦も多かった。佐藤総理は慎重な性格で容易に本心を明かさず周到な人事配置で巧みに政権を運営した。
考えようによっては、第1次安倍内閣は岸政権に似ており、第2次は佐藤政権に似ているといえるかもしれない。

実は佐藤政権は国防関係者の間では評判が良くない。自民党の党是であった自主憲法制定について政権発足時に論議棚上げにしてしまい、国防体制を確立しないまま高度経済成長を実現したからである。

当時、自民党を支持するのは戦前派であり、戦後派は社会党支持だとされていた。戦後派が増えて行く以上、自民党も戦後派の支持を得るためには妥協や譲歩が必要と考えられたのであろう。
だが、国防について妥協と譲歩を繰り返しているうちに遂に誕生したのが民主党政権であった。そして誰もが民主党政権に失望したのは、この党が国防について何の定見もないと分かったからであろう。

だとするならば安倍政権が平成の佐藤政権になるために国防を犠牲にする必要は何もない。佐藤政権がマスコミに叩かれながら高度経済成長に邁進したように、安倍政権は国防確立と景気回復に邁進すればいいのであろう。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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