「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年7月13日 通巻第3703号 を転載

軍の血の弾圧も人民武装警察(第二軍)の催涙ガスも懼れるな
大量の学生が参加の抗議行動を「起義」ではなく「勇義」を位置づけた

月初来、四川省徳陽市シーファンで起きている「暴動」は従来のそれと様相がまったく異なる。この点に世界のジャーナリズムが瞠目しはじめている。
原因は金属工場プラント(興建宏達銅精錬)の新設に対して、公害反対という市民の抗議活動だった。したがって最初は工場建設反対のエコ運動の一環かと思われた。

ところが学生が主体となって過激な抗議活動は市庁舎を襲撃し、破壊したのみならず、出動した武装警察は催涙弾を打つ程度で、血の弾圧には踏み切らなかったのだ(一説には武装警察も若返り若者等が弾圧を不正と考えている由)。

「八九六四以来(89年6月4日の天安門事件)、昨夏の大連郊外工場移転要求、広東省陸豊の農民一揆、重慶市万県と双橋の住民暴動の連続、そして香港で胡錦涛訪問への四十万抗議行動など、大量の学生が権力に逆らい逮捕の恐怖をもろともせずに立ち上がった」(博訊新聞網、7月13日)。

広東省陸豊市鳥炊(ウーカン村)での農民蜂起は、ついに村役場党書記の民主選挙を実現したように、このところの暴動、抗議行動に「民主化」の波が渦増している事態には注目が必要である。これは王洋広東書記の政治的打算と思惑も内包するが、陸豊といえば、毛沢東革命の前段階で農民一揆の嚆矢となった「名門」の農村である。

1990年代に移って、中国の学生は、拘留、学籍剥奪を懼れて政治活動を極力控え、政治的無関心を装った。
この無気力なムードをぶち破る「快挙」となるか、どうかは今後の政治がどれほど変貌して行くかにかかっているが、写メールでただちに全土に報道されるや、支持表明のネット言論に加えて著名知識人等が逮捕、監視という予測される不安を懼れずに、次々と学生の行動に理解を示し、支持を表明するという連帯が起こり始めたからである。

▼1980年代後半の東欧の自由化の波に酷似する事態か?

2011年のアラブの春では連鎖を懼れて当局が次々と有力ブログへ閉鎖し、集会告示のネットをただちに消去し、予定された集会場所には私服刑事等を貼り付けて、完全に封じ込めた。
つまり当局は予告行動は抑えられるが、瞬発的で自然発生的デモを抑えることは不可能になり、その上、ネット上の取り締まりも人手不足に陥ったため一部分機能しなくなった。

地方政府幹部は、いまや解決方法の模索もつきて、戦々恐々の状態となっている。
地方幹部にとっては地域経済の発展が貧困を除去し、失業をへらす効果的対策であり、企業誘致、大学誘致、工業団地の建設を推進するという命題がある。しかしそうすれば、農地没収、強制収容もまたつきものの政策となり、この矛盾を如何にして止揚し、経済発展を可能にするべきか、もやや前途に効果的対策はない。

 
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