ねずさんのひとりごと から転載

あんぱんの開発と日本の発展

偕行 6月号に私の論考が掲載されました。
あんぱんの物語です。

このお話は、あんぱんが、西洋風のパンでなくて、実は純日本風のパンとして工夫を凝らされたものであること、そして明治のはじめに陸軍の軍用食となることで、いっきに全国に広がったことについて書いた短文です。

たいせつなことは、かつて日本に、どんな苦境に陥っても、何もかも失っても、それでもひとりでも多くの人に喜んでもらおうと、一生懸命にあんぱんの開発にいそしんだ人がいた、ということ。
そういう、人の苦心や苦労の末に生まれた甘く美味しいパンを、明治大帝が事情も知った上で、たいへんにお愛しくださったということ、そのことにより、あんぱんは、まさに日本を代表するパンとなったということです。

いま、大混乱する世相の中で、多くの日本人が、たいへん苦しい中、を生きるために戦っておいでになります。
なにがあってもくじけない心、なんとしても良いものを作ろうという日本人の心、そういうものを大切にしていきたいと思うのです。

先日、ある方から、ある大手家電メーカーの常務さんが口にされたお話を伺いました。
ちょっとまとめてみます。

我々はどうしてスティーブ・ジョブスに負けたのか。
このことを真剣に考えないといけない。
 
無線電話にカメラをつけ、音楽をつけ、ワンセグをつけ、決済機能をつけと、お客様の声に耳を傾けてつみあげてきた。
しかしね、アップルの資料をみると、すでに1984年に今のiPodのようなものを構想してる。
かれらは愚直にずっと追求してきたんだ。
 
本当にお客さんにもたらさないといけないものは何なのか。
4年や6年で社長がかわるような日本の会社でこんなことができるか?
 
ものづくりを通して本当にもたらさないといけないことへの情熱、我々はこれで負けたんじゃないのか。
我々は、学校教育の現場から、この「情熱をもった人間」をそだてないといけないのじゃないのか。
要素技術はその後だろ。

この言葉は、単にその大手家電メーカーの敗北という以上に、我々の日本という国の敗北を示唆しています。

なるほど戦後の我々は、業種を問わず、商品開発にあたってはアンケートなどで世論調査を行い、いま消費者が何を求めているかを把握し、数字化されたその資料に基づいて、開発計画を立て、新たな新製品の開発と当期売上と利益を確保してきました。

けれどこのことは、モノつくりという観点から見たら、「売れるものを<作る>」ための作業です。

これに対しアップルのジョブズさんらがやってきたことは、「新しい市場を<創る>こと」ではなかったかと思うのです。

ソニーが世界のソニーとなったのは、世界に先駆けたウォークマンの開発でした。シャープが世界のシャープとなったのは、液晶画面の開発でした。
VTRにしても、DVDにしても、またこのブログで以前ご紹介した電卓やFAXの開発にしても、まさに新たな市場を<創る>ために、長年にわたる地道な研究開発を怠らなかったことが、まさに世界の市場を掘り起こす鍵となりました。

そこには企業の努力ばかりではなく、大学の研究室も、おおきな貢献を果たしてきたし、その研究開発を促進するための官民をあげた研究開発費の支給もありました。

昨今、やたらと「政治主導」なる言葉が蔓延していますが、こうした企業努力が可能だった背景にあるのは、決して「政治主導」ではありません。
むしろ「民間主導」で進められる夢や未来の創造のために、優秀な官僚が予算をとり、企業が資金を投じ、研究が促進され、その結果としてまったく新しい需要が喚起されて、巨大な市場が、そこに生まれたのです。

国会が左右の思想対立と称して、極端な言い方をすれば「政治ごっこ」に明け暮れている中で、民間の情熱と官僚の補佐が結果として、日本という国の高度経済の牽引役を果たして来ました。

日本が戦後大きな成長ができたのは、決して「政治主導」であったからではありません。民間と官僚が互いに国家の発展のために智慧を出し切り、小さな努力を、情熱を持ってコツコツと積み重ねてきたからです。

そう。あんぱんと同じように、です。

とにかくサヨクの主張していることは、嘘ばかりです。
グローバリズムは結構な話だけれど、いち地域、同一文化圏にある欧州ですら、まとまらない。
ましてや、世界が統一政府になるなど、悪いけれどまだ数百年先の話です。

現代に生きる私達にとっては、家族あっての仕事だし、会社あっての生活だし、国家あっての日本社会です。
日本という国を大事にしないで粗末にするということは、会社を大事にしないで祖末にすること、家庭や家族を大事にしないで粗末にすることと同じです。

家族あっての仕事、会社あっての生活、国家あっての繁栄です。

目先のことももちろん大事です。
目先のニーズに応えることも大事でしょう。

売れるものを作って、目先の売上を上げる。
選挙民のニーズに応えて、票にする。
それはもちろん大切なことでしょう。

けれど企業活動において、新しい需要を創り出す、創造するという活動も、もっと大切なことです。
かつてシャープは創業時、日本で最初のラジオを創り、発売した。
ソニーも、もともとはトランジスタラジオが出発点でした。
トヨタは、豊田式自動織機の開発が、最初のきっかけです。

新たな需要の創造、新たな商品の創造は、開発も、販売もものすごく時間のかかる地味な作業の連続です。
それがうまく行くという保証さえありません。99%ダメかもしれない。

けれど、そういう新たな市場の開発のための努力を、かつての日本は、本気になってやっていた。
そしてその集大成が、日本経済の大発展の原因となっていたという事実は、おそらく誰もが否定できない事実なのではないでしょうか。

政治も同じです。
人々の目先のニーズを満たすことも、もちろん大事なことだけれど、それ以上に、国家百年千年の大計をもって、未来の日本を築いて行く。

砂漠の真ん中に、行き先のわからない人々が、集まっていても、なにもできません。
人々は、砂漠の太陽に焼かれるだけです。何も産み出さない。
水や食料が不足したら、次々と死ぬしかなくなってしまいます。

その人々に、西に向かおう、東に向かおう!、積極的に水を求めて移動しようじゃないか、とリーダーシップを発揮するのが政治の本来の役割です。
そして人々が、一定の方向に進み出した時、集団としてのパワーが生まれる。集団内の助け合いも生まれる。そして動けば、必ず結果が出る。

要するに、政治にとって最も大切なことは、未来の想像だと思うのです。

私達日本人は、あんぱんを食べます。
全部焼かれて、なにもかも失った中年のオヤジが、ただただ家族を養いたいと誠実に、毎日の研究開発に命を燃やした結実が、そこにあります。

そしてその大誠実が、天をも動かし、日本陸軍にあんぱんが採用となり、会社は大成長して、いまも存在する銘店となって、子孫たちを扶けています。

私達日本人は、人も企業も国も、あらためて原点に還るべきときにきているといえるのではないでしょうか。


偕行6月号

偕行6月号(クリック拡大)

写真は、偕行6月号に掲載された私の原稿です。クリックすると大きくなりますので、お読みいただくことができます。

偕行は、旧、陸軍士官クラブである偕行社が発行する月刊誌です。
たいへん格調の高い本で、論者の方々も、読者の方々も、まさにホンモノの元帝国軍人の方々が集っておいでになります。
創刊は昭和26年にさかのぼり、あるいみ日本を代表するホンモノの保守の月刊誌ということができます。

ご購読は、偕行社の賛助会員となることで、できます。
会費は年間4000円(個人の場合)です。
お申し込みは↓コチラ↓からできます。
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さて、偕行社の会員の皆様のような立派な方々の機関誌に私のような一介の市井の者が原稿をご掲載いただくなど、まさにもったいないの一語につきることでほんとうに恐縮してしまうのですが、ご好意で、前々回の「インパールの戦い」に継いで、今回「あんぱんのお話」をご掲載いただきました。
たいへんありがたいことと、深く感謝いたします。

 
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