福岡高裁は2月27日、熊本県に対して故溝口チエさんへの水俣病認定を義務付ける判決を下した。その後、息子の溝口秋生さんは県に対して上告しないよう求めたが、それに対し県は国と協議するといい、国は県から相談があれば応じるという、露骨なたらいまわしをやった。亡き母親の代理として戦う秋生さんはすでに80歳。高裁で勝利したとはいえすでに最高裁を視野に入れている。県と国は80歳になる秋生さんに対し問題を更に引き伸ばす。「政治的都合と風評、弱者の命」という水俣問題の本質をさらしている。
溝口さん、国に「県に上告断念を」 水俣病訴訟
亡くなった母親の水俣病認定義務付けを求めた訴訟の福岡高裁判決で逆転勝訴した溝口秋生さん(80)=水俣市=と支援者が1日、環境省を訪れ、被告熊本県に上告断念を促すよう申し入れた。環境省側は「一義的には熊本県の判断だ」と聞き入れず、5時間を超えた議論は平行線をたどった。
県の水俣病認定業務は国の法定受託事務。溝口さんらは判決後に熊本県と交渉したが、村田信一副知事が「国と協議して対応を検討する」と述べたため、上告断念を求めて上京した。
この日応対した桐生康生・特殊疾病対策室長は「訴訟は県が係争中で、県の対応を見たい。上告するかどうかは一義的には県の判断で、相談があれば応じる」と回答。約20人の支援者らから「訴訟での反論や認定基準運用に国は密接に関与しており、たらい回しだ」と批判が相次いだ。
国の認定基準を「十分とは言い難い」と指摘した福岡高裁判決についても、桐生室長は「基準そのものは否定されていない」との主張を繰り返した。国の対応に、溝口さんは「こんな対応がまかり通るのか。行政は判決を何と思っている」と憤った。(渡辺哲也)