鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【2月17日号】

イラン戦争は火を噴くか?

野田総理は15日に官邸でイスラエルのバラク国防相と会談して、イスラエルが企てているとされるイランの核施設空爆について、慎重な対応を求めたという。
まさか日本の総理が、「空爆大いに結構!ジャンジャンおやんなさい」などと言う筈はないから、当然といえば当然の発言だが、それにしてもバラク国防相は内心呆れていたのではないか。イスラエルにしてみれば、北朝鮮の核兵器に怯えて米国に頼り切っている日本の様になりたくないからこそ、空爆を検討しているのである。「お前にだけは言われたくないよ」そんな心境だっただろう。

かつてインドの核実験に対して広島の平和団体が「ノーモア、ヒロシマ」と抗議した時、インドの国防相が「ヒロシマの悲劇を繰り返したくないから我々は核抑止力を持ったのだ」と反論したというが、まことに日本の無責任な平和主義には世界中が呆れていよう。

さて年末からイランを巡る国際情勢が緊迫の度を増している。イランの核武装が時間の問題となって、まず悲鳴を上げたのが欧州だ。金融危機ばかりが取り沙汰されるが、欧州の真の危機はギリシアではなくイランである。
イランの核ミサイルが完成すれば欧州は射程に入る。パリのエッフェル塔の焼け落ちる光景に快哉を叫びたがるイスラム原理主義者は少なからずいる。折しも米国は財政危機で国防費を削減しなければならず欧州からの撤兵を決めている。
欧州は欧州で守らなくてはならないが、そのためには欧州各国の国防費を増やさなくてはならない。だが金融危機に喘ぐ各国が国防費増額で合意できる訳はない。これでわかるだろう、ギリシア危機の本質は実はイラン危機なのである。

そこで欧州はイランからの原油を輸入しないことで合意した。核開発をやめないイランへの圧力だが、そうなればイランはホルムズ海峡を封鎖すると反発するのは最初から分かり切っていた。ホルムズ海峡が封鎖されれば、米国は軍事介入せざるを得ず、イランの核開発を停止させられるという、読みである。

オバマはこの欧州の策謀にすぐに気付いた。だが彼はブッシュを批判し海外派兵をしない主義で当選した大統領だから、なるべく軍事介入を避けたい。だからイスラエルに空爆させる案を思い付いた。米国はイラクから昨年末に撤兵したが、同時にイラク上空の航空管制も停止した。イスラエル空軍はイラク上空を通ってイランに行ける。「さあ空爆をどうぞ」という訳である。

イスラエルにしてみれば悪役を押し付けられた様なものである。米国の思惑に乗ってイランを空爆してイスラム教徒の憎悪を一身に浴びるのは堪らない。それにイランの核開発は相当進んでいて、もはや空爆だけで完全に阻止するのは困難だと見られる。どうしても最終的には米軍等による軍事占領が必要となる。
「米国はいざとなったらそこまでやってくれるのか?」とイスラエルの首相がオバマに質すと、「どうしてもやるなら、西側全体で結束してやるしかない。だけど日本は派兵してくれるかな?」かくてイスラエルの国防相が来日したのである。

イラン全体を軍事占領するとなると50万の兵力は必要で、恐らく日本には応分の負担として1割、すなわち陸海空併せて5万人程度の派兵が、武力行使付きで求められるだろう。
野田総理が「ジャンジャンおやんなさい」と言わないのは当然で、本音の部分では「そんな事になったら、この内閣吹き飛んじゃうよ」と言ったところだろう。

以上の「」(カギ括弧部分は筆者の脚色で、実際にこうした会話が報道されている訳ではないから念の為。
最後に野田総理のイスラエル国防相への発言を脚色しておこう。
「日本が対応できる訳ないじゃないか。会ってみると分かると思うけど、お宅と違ってね、日本の防衛大臣は無能なんだよ、ム、ノ、オ!」

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軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。
<著作>
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