「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23(2011)年10月13日 通巻第3449号を転載

「計画を作成しようという計画あり」とユーロ首脳がためらっている裡に
ギリシアの債務爆発はしゅるしゅると音響を発し始めているではないか

ジム・シャノスをご記憶だろうか?
先物取引の名人、ウォール街の予言師。ちょうど一年前だった。シャノスは「中国経済のバブルは崩壊する。その規模はドバイの1000倍」と言った。

中国の市場関係者は怒りに震えたが、さて全米最大の週刊誌『タイム』(2011年10月17日号)もNYタイムズ(同月12日)も「中国のバブル破裂は時間の問題ではなく、すでに始まった」と書いたため、ふたたび予言師シャノスへの注目が集まったのである。

シャノスは中国を訪問したことがなかった。
十月中旬、はじめて香港の地を訪れるが、「各地で歓迎されるのではないか」(英誌エコノミスト、10月8日号)。

同誌は言う。
「欧米に輸出を依存している中国経済は、ユーロ危機と米国の債務危機により景気悪化は避けられず(現に多くの倒産がでている)、日本の企業も対中輸出が激減するだろうから債権市場の混乱、下落が予測される。むしろ人民元は下落するだろう」。

だが人民元下落、中国不動産バブル崩落も、ギリシアの債務不履行とのかねあいで進みそうだ。

ギリシア救済の話し合いは遅遅として、まるでウィーン会議。「会議は躍る」のなら、さしずめ現代のメッテルニヒは誰になるか?道化師サルコジですかね?

「計画を作成しようという計画あり」(PLANTOHAVEAPLAN)とユーロ首脳がためらっている裡にギリシアの債務爆発はしゅるしゅると音響を発し始めている。

▲皆のため、全体のため、ギリシアはデフォルトせよ

「ギリシャをデフォルトさせろ」と唱えたのは英紙名門「フィナンシャル・タイムズ」(10月7日付け)だった。

FT紙はこう言う。
「ギリシャを自由にしてやる時だ。ユーロの崖っぷちでもがき必死にしがみついているギリシャ政府の手を踏みつけろと言うのではない。しかし最善の結果を期待することは、むしろ災いを招く段階まで来ている。欧州はギリシャの転落を管理する計画が必要である。ギリシャのインソルバンシー(支払い不能状態)とポルトガル、スペイン、イタリアの脆弱性という二つの難題。付随して欧州の銀行にかかる負荷。
緊急を要するの課題はギリシャのデフォルト(債務不履行)の時期並びに債務再編。或いはすべての国を巻き込む無秩序的な金融崩壊。どちらの選択肢を歩むのか。
(ドイツのメルケルやフランスのサルコジが協議している緊急融資など)患者を死に追いやる措置でしかなく、いずれギリシャの債務、財政状況、経常赤字、貧弱な競争力などを勘案すれば、ギリシャは債務の罠から逃れることはできない。ドイツ政府はギリシャ政府を責任から解放すれば、ポルトガルとスペインも最悪の事態を逃れられると誤認するだろう」。

さらにFT紙は続ける。
「その次に控えるのは政治的に機能不全状態のイタリアだ。そもそもソブリン債務危機は銀行危機から生まれ、いまや第2の銀行危機を引惹起した。フランス・ベルギー系の銀行デクシアの倒産が出来した。
デフォルトに至り、ギリシャが疲弊した社会制度の全面改革に乗り出し、経済改革を行わなければ、いずれ早晩、ギリシャはユーロから追い出されるだろう」。

ギリシア?
欧米が西洋近代文明の祖として憧れるギリシアは古代理想郷として描かれ、ソクラテス、ブラトン、アリストテレスを生んだ、あの偉大な文明を構築し、一方で文学、哲学の源流を生んだ文化大国「だった」。
だが、あの古代ギリシアの英知をもった当時のギリシア人と、「ハイブリッド混血」といわれる現代ギリシア人とは、発想法もモラルも人生観もまったく異なる。
「だった」と過去形で書くのは、そういう意味である。

▲現代ギリシアはソクラテスのギリシアとは繋がっていない

ギリシアが誇りとする五輪もアレキサンドラ大王も、エーゲ海もミケーネも、現代ギリシア人とは縁も愉快もないとは言わないが、同一視するのは危険である。

古代ギリシアはアイオリス人、イオニア人、ドーリア人の三大民族が構成した。
アイオリス人は紀元前三十世紀頃からドナウ川から進入し、紀元前六世紀頃衰退した。

イオニア人は紀元前二十世紀頃からバルカンへ南下してアテナイに拠点を築いた。ペルシア人が最初に接触したギリシア人とは、このイオニア人で現在のトルコの西にまで勢力を広げていた。

ドーリア人は紀元前十世紀頃から中欧を南下してバルカン半島と通過し、ギリシアに侵攻、スパルタを構築した。

ソクラテス、プラトン、アリストテレスという世界哲学の最高峰が確立されたのはアテナイで、紀元前五世紀から四世紀。
そのソクラテスを「青少年に悪影響を与えた」といって死刑に処した古代ギリシア人は英知、愚鈍、馬鹿のハイブリッドであったように現代パパンドロウ政権は欧米への矜恃をいつまでも保ち、沽券だけを維持しようとするのだろう。

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