先に申請したものが特許を取得するというのが世界常識とされており、日本もその考え方が常識とされている。だが、アメリカは「先発明主義」をとっており、申請者よりも先に発明したという証拠があれば、その特許取得者を切り替えることができる。日本企業が自らの特許技術で膨大な利益を得た後に、「実はその技術は昔アメリカ企業が開発したものだ」と言いだし、何か証拠らしきものを提示して米国政府が認定してしまえば、その権利を持って日本企業に利益を請求できるというものだ。

法を正すも曲げるも「力」次第。ギャングの縄張り争いと同様である。だが、これが世界でまかり通る現実だ。この不公平を改正するよう各国が米国に要求し始めたのは80年代からだが、今まで改正されることはなかった。今回の特許法改正は、アメリカ覇権の衰退現象の一つだ。

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23(2011)年9月16日通巻第3424号 を転載

米国できょう、改正特許法が成立、2013年から実施へ

日欧の悲願がようやく達成、次の問題は日本の特許法改定

2011年9月16日。先週オバマ大統領が署名した米国特許法の改正が成立する。実施は2013年から。

改正の内容を一言で言えば「先発明主義」に頑迷に固執してきた米国が「先願主義」に切り替えるポイントにある。ようやくにして米国は国際協調に乗り出すのだ。

特許(パテント、実用新案、商号、ロゴ)は申請した順番で認められる。
ライト兄弟より先に飛行機を発明し実験飛行に成功したフランス人がいたが、ライト兄弟が先に特許を申請したので、飛行機=ライト兄弟となった。これが世界の常識だった。

米国は先に学会で発表したり、論文をなにかに書いたり(それは友人にあてた手紙でも良かった)、申請者より前に発明したという証拠があれば、世界的常識である先願主義を退けて特許を先に発明した人、団体、企業に与えてきた。
ハイテク時代に突入した世界で、これが最大の問題をほうぼうで引き起こした。
制度を世界標準にあわせない米国のシステムは基本的に不公平であると日欧が米国に改正を要求し始めたのは1985年だった。

じつは筆者は1984年に上梓した『日米先端特許戦争』(ダイヤモンド社)のなかで、この問題を指摘している。

▲悪用乱用されてきたサブマリン特許は米国のお家芸でもあったのだが。。。

米国では所謂「サブマリン特許」と言われる巧妙な手口が乱用された。悪用する輩があとを絶たなかったのである。
たとえば日本の企業が先に申請し、特許が成立し、ヒット商品が生まれたとしよう。相当の儲けがあったあと、やおら潜水艦が突如浮上するように、「わたしが特許を持っている」と、「発明者」が名乗り出て、莫大な特許料をせしめるという、阿漕な遣り方。これで甚大な被害を被った日本企業が夥しいのである。
これが特許の世界におけるサブマリン攻撃である。

法廷闘争の巧みさも、米国のような弁理士、弁護士社会では弁舌、詭弁によって、本物の発明家より、途中からアイディアを盗んでちゃっかり自分の名前で特許と取得するケースも目立つ。

住友電光が光ファイバーで米コーニング社にまんまとやられてしまった典型の事例もある(個人的なことをもう一つ書くと、この特許訴訟の取材で小生、85年に米国ニューヨーク州の山奥にあるコーニング本社特許部に行った。またサブマリン特許をモデルとした小説は服部真澄の『鷲の驕り』か『龍の契り』のどちらか。特許問題が米國の理不尽だと問題点をえぐったのは高山正之の連作)。

▲米国の法改正は歓迎だが、次のやっかいな問題は日本の国内にあり

さて次の問題とは何か?
それは日本の特許法に「秘密条項」が欠落していることである。
日本の特許制度では、申請してから十八ヶ月後に、あらゆる申請書類は「特許公開公報」に掲載されて全世界に公開される。

これをロシア語にも中国語にも翻訳することは自由であり、合法であり、つまりは堂々のハイテク・スパイがまかり通る。

欧米諸国の大半は特許制度のなかに『防衛機密に属する特許は、これを公開しないでもよい』とする秘密条項がある(戦前の日本にもあった)。
通産省(現在の経済産業省)は、数年前から、この法律改正の準備に入ったと聞いているが、まだ成果はみられない。

日本企業は、秘密条項がないために、別の技術防衛をはかってきた。
簡単に言うと『本丸隠蔽作戦』と呼ばれる技法、方法である。城の攻防戦にたとえると外堀、内堀、三の丸、二の丸、本丸の順で敵が攻撃するとすれば、外堀から完全に埋めて敵に攻め入る余地を与えない。わかりやすく言えば肝心要の特許を隠すために、周辺の技術を自社特許で固め、ライバル企業が周辺技術に抵触すれば法廷で訴え、本丸には一歩も近づかせない戦法である。

いずれにしても日本の特許法改正は急がなければならないだろう。技術を平然と日本から盗み出して『我が国の技術だ』と獅子吼する國がすぐ近くにありますからね。

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