「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23(2011)年8月30日通巻第3411号 を転載

アサド大統領のシリアは「セクト浄化」という大粛正
転覆したリビアのあとに来るのはセクト主義の内ゲバ暴力という暗黒では?

シリアはアラウィ派という少数派がドルーズの協力を得て、政権を握っている。アサド大統領がおこなっている弾圧は国民の多数派であるシーア派過激派、ならびにヒズボラであり、ともに背後にあるのはイランである。

バーレンはスンニ派が政権を掌握するがこれも少数派、反対にエジプトでは少数派コプト教徒への弾圧、差別が凄まじい。
バーレンのシーア派に「民主化」という名の蜂起を扇動しているのはイランである。
ともに神経を尖らせるのはサウジアラビアと米国である。むろん、イスラエルも。

サウジアラビアはスンニ派のなかのワッハーブ派(穏健派)。イランとは宿命の天敵であり、バーレンは米国第五艦隊の寄港地ゆえホルムズ海峡の地政学上、死活的な要衝、イランの影響下にはいることは避けたい。
このためサウジはバーレンに戦車隊を派遣した上で、イランに対して「戦争も辞さない」と強く警告した。

じっさいにレバノンの首都ベイルートは、「中東のパリ」と言われたほど美しい都だったが、内戦で瓦礫の山と化し、復興に立ち上がったハリリ首相は暗殺されて、またまた血の海と化した。
ハリリはサウジアラビアとのパイプが強いビジネスマンだった。
レバノンを支配するのはイランの支持をうけているヒズボラである。

イラクで何が起こったか?
民主化を主唱し、人権を無視する独裁者のサダム・フセイン体制を倒せば、イラクに安定と民主と平和が訪れると言われた。

米軍が介入し、サダムを吊し、そしてイラクはどうなったかと言えば、少数派のスンニ派が日々影響力を希釈させ、暴力が飯よりも好きではないかと思われる過激セクトが各地で自爆テロを展開、イラクは米国が望んだ反対方向へ突き進んでいる。
つまりイラクはイランから援助を受けたシーア派が権力を掌握する過程にあると表現しても過言ではない。

アフガニスタン民主化を達成すると呼号して、欧米は十数万もの軍隊をカブール、カンダハルそのほかへ投入し、はや十年近い歳月。
いまのアフガニスタンは、カルザイ政権の統治およばず各地で自爆テロ、暗殺、そして麻薬の横行。
アフガニスタンで起きているのはセクトの血で血を洗う内ゲバ戦争。いずれアフガニスタンも米欧が望んだこととは逆に「タリバニスタン」と化すだろう。

同様にリビアにカダフィがいなくなって「民主化」される?
それは寝言に近い。
「アラブの春」などと欧米マスコミが、というより左翼ジャーナリズムが期待を込めて勝手に命名した「ジャスミン革命」がチュニジアでおこり、ついでエジプト、そしてイエーメン、シリア、バーレンの危機は、現時点で総括すれば、「セクト洗浄」である。
自爆テロの対象は米軍ばかりではなく、少数派(スンニ派)の政治家である。

民族浄化(エスニック・クリンジング)に引っかけて、これを「セクト・クリンジング」と比喩したのはバリ・ナサル(米タフツ大学教授)である。

 
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