石平(せきへい)のチャイナウォッチ 2011/08/22 を転載

13億人の社会的焦燥感 激変と混迷の「乱世」突入への前兆

1日付の『中国青年報』が興味深いインタビュー記事を掲載した。
インタビューの相手は共産党中央党校の呉忠民教授であり、テーマは「中国社会の焦燥感」についてである。その中で記者は、「現在の中国社会では普遍的な焦燥感が蔓延(まんえん)している」と述べ、呉教授の見解を聞いたところ、返ってきた答えはこうである。

「現在、焦燥感なるものがこの社会ほとんどすべての構成員に広がっている。
低層の労働者や農民も、より良い社会環境に恵まれている政府の幹部や民間の経営者も、そして豊かな沿岸地域の住民も貧しい内陸部の住民も、ほとんどすべての中国人がある種の焦燥感に取りつかれ、大きな不安に駆り立てられている。焦燥感がこれほど広がっているのは中国の歴史上でも珍しいケースであり、戦乱の時代以外にはあまり見たことのない深刻な状況である」

共産党政権の高級幹部を養成する中央党校教授の立場にある者が、中国社会の現状についてこれほど深刻な認識を示していることに筆者は大いに驚いたが、呉教授の指摘した通り、「社会的焦燥感」がかくも広がっていることは中国の長い歴史でも「珍しいケース」であろう。

そして世界史的に見ても、ある国において、労働者からエリートまでのすべての国民がえたいの知れぬ焦燥感や不安に駆り立てられているような状況はたいてい、革命や動乱がやってくる直前のそれである。

呉教授がここで、「戦乱の時代以外に見たこともない」との表現を使っていることも実に面白い。
要するに今の中国の社会的心理状況は既に、「戦乱の時代」の状況に類似してきているということであろう。

こうなったことの原因について、呉教授は改革開放以来の中国社会の変化の激しさや国民の生活満足度の低下などを挙げているが、筆者の私の認識からすれば、貧富の格差の拡大や腐敗の蔓延が深刻化して物価も高騰し経済が大変な難局にさしかかっている中、改革開放以来の中国の経済成長路線と社会安定戦略がすでに自らの限界にぶつかって行き詰まりの様相を呈している。

それこそが「社会的焦燥感の蔓延」を生み出した深層的原因であろう。
もちろん、このような社会的現象の広がりはまた、中国社会が今後において激変と混迷の「乱世」に突入していくことの前兆でもある。

実際、現在の中国における騒乱や暴動の多発はまさに、「乱世」の到来を予感させるものである。
今年6月の1カ月間を取ってみても、6月10日から連続3日間、広州市近郊の町の新塘で起きた出稼ぎ労働者の大規模暴動を始め、土地収用問題が引き金となって浙江省台州市で発生した集団的騒乱事件、河南省鄭州市で土地収用の補償をめぐって起きた村民の騒動、湖南省長沙市の市庁前で繰り広げられた土地収用反対の市民の抗議デモ、同じ湖南省の婁底市で電力会社の高圧電線塔計画に反対するために展開された抗議運動など、まさに「焦燥感」によって駆り立てられた民衆の反乱が全国に広がっている様相だ。中国社会全体はあたかも「革命前夜」のような騒然たる雰囲気となっていることがよく分かる。

そして、7月に起きた高速鉄道事故では、露骨な情報隠蔽を行った政府当局の横暴と人命軽視に対し、民衆の不満と反発が爆発寸前にまで高まった。この一件を見ても、13億国民の「社会的焦燥感」がやがて大きなエネルギーと化して急激な変革を引き起こすに至る日はそう遠くない。
そう私は確信している。

( 石 平 )

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