「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23年(2011)1月12日(水曜日)通巻3188号を転載

ヒラリーは突如イェーメンへ。
バイデン副大統領はアフガニスタンへ

手分けしてウィキリークスの機密漏洩を釈明の旅。

ヒラリーは突如、イェーメンに現れた。
過去二十年間、米国の国務長官がイェーメンを訪問することはなかった。異例の外交をはじめたのである。
事前予告がないのも安全のためである。
アルカィーダがイェーメン南部に軍事訓練基地を設け、テロリストを輩出させている物騒な国ゆえに、いきなり訪問するしかない。

イェーメン南部に蟠踞するテロリストは「アラビア半島のアルカィーダ」(AQAP)を名乗り、09年12月25日におきたデトロイト空港の航空機爆破事件の犯人がイェーメンで軍事訓練をうけていたうえ、テロ未遂犯が同様に爆発物の操作を同地区で訓練されていたことなど、このまま放置すればイェーメンは「第二のソマリア」になる危険性が高い。

米国はイェーメンに合計3億ドルの民生軍事両面の援助を展開し、地政学的にもアラビア半島の付け根という重要拠点であり、同時にソマリア海賊対策の対岸の拠点として重要視してきた。

1月11日、イェーメンを電撃訪問したヒラリーは首都の大統領宮殿でアリ・アブドラ・サレ大統領と昼飯をともにし、「良好は緊密な関係である」と協調した。
大統領宮殿は厳重な警戒が敷かれ、ヒラリーは同国での宿泊を回避し、次の訪問国へむかった。中東を五日間かけて巡回する予定。

じつはヒラリーの目的はウィキリークスが暴露した米国外交文書の釈明。「イェーメン南部のカルカィーダ秘密機を爆撃したのはイェーメン空軍ではなく米軍だった」とするウィキリークスの暴露を釈明するためだった。

▼カルザイ嫌いのバイデン米副大統領はカブールへ行かされて作り笑い

一方、アフガニスタンのカブールへ飛んだのはバイデン副大統領である。
「カルザイは信用できないし、かの政権は汚職が蔓延している」という外交文書をウィキリークスが暴露したため、釈明に赴いた。

しかしバイデンその人がカルザイを嫌っており、両者はしっくり行くはずがないのだが、米国とアフガニスタンの特殊関係を維持するために、カルザイ政権の汚職には目をつむろうというわけだ。

バイデンはカルザイとの共同記者会見(1月11日)に笑顔で現れ、両者の関係は修復され、ジョークを飛ばしあう仲であると強調した。
「米国はアフガニスタンにおける責任をまっとうし、民主化されて安定的なアフガニスタン建設に協力する」とした。

バイデンは2008年2月、上院議員時代にもカブールを訪問し、カルザイとの晩餐会で「汚職をなんとかしろ」と詰め寄った。「我が国に汚職はない」と言ったカルザイに立腹して食事の席を蹴飛ばした。
その前にもタリバンが陥落した折、バイデンはアフガニスタンを訪問し、カルザイとは電気もきていない、暗い部屋で面談したことがある。

そのバイデンが釈明にカブールへ飛ぶのも歴史の皮肉と言える。

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