「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23(2011)年11月24日通巻第3496号を転載

ならば中国とロシアは良好な関係を維持しているのに
何故、両国は嘗てのように「反米軍事同盟」を再構築しないのか

空母「ワリヤーグ」は八月に黄海をデモンストレーション航海した。
このワリヤーグはロシア製、ソ連崩壊直後にウクライナに係留されていた未完成品を鉄の塊として中国は買った。

マカオに係留しカジノホテルにするというふれ込みだった。
爾来、大連で艤装工事を施しながらも、訓練航海で搭載機の離着艦はなかった(ちなみ過去九隻、ロシアは空母を建造したが、すべて廃棄)。

最新のニュースではロシアがカタパルト用のワイア、着艦用制御部品を中国海軍に供与していない事実が浮かび上がった。
スホイ33を中国は勝手に製造し「殲15」という艦載機を製造したことへの報復措置と見られる。

中国とロシアは50年代に蜜月の一時期を過ごしたあと、毛沢東の中華至上主義とソ連嫌いから対立関係におちいり、中ソ領土係争はながく続いた。
両国は国境4000キロに夥しい軍隊を貼り付け、ダマンスキー島(中国名=珍宝島)などでは軍事衝突がおきた。
山西省大同には五十万の軍が駐留していた。

冷戦終結とともに、ロシアは中国へ武器供与を再開したばかりか、最大の顧客となり、最新鋭のキロ級潜水艦、ソブレメニュイ級ミサイル駆逐艦までを供与した。スホイ27ジェット戦闘機はライセンス生産を許可した。

またロシアは中国へ原油、ガスの輸出を拡大して潤い、ウスリー島、ダマンスキー島などの領土問題は打算のもとで、解決。国境付近は投資ブームに沸いている。内蒙古省とロシアの国境=満州里は陸続きで鉄道による原油輸送も活発化した。
興凱湖で国境を分ける密山市やスイフェンガも投資ブーム、ウスリー川、アムール川との国境=撫遠の街はあたかもサンクトペテルブルグのごとし。

しかしながら、ロシアの懸念はシベリアに住むロシア人口の少なさに比較して中国人の同区域への大量進出である。

▲中ロを結びつけている一番の動機は何だろう?

しかし両国は共通の懸念がある。少数民族、とりわけイスラム原理主義過激派のテロ対策である。
このため中国が主導する上海協力機構(SCO)に対してロシアは内面的に穏やかではなくとも表面的協力をしてきた。他方、ロシアはすでにCIS連邦条約によって、たとえばキルギスに軍隊を駐屯させており、同時にアフガニスタン戦争では米軍海兵隊のキルギス空港駐屯には表だった反対を控えた。
中国もこの事案では沈黙した。

この間、両国は貿易を急速に拡大したうえ、外向的にはお互いの政策を褒めあい、国連の機能強化に同意しつつも、ロシアは武器とエネルギーを売ることに優先順位をおき、中国は武器技術の取得に重きを置いてきた。
計算されつくされての演出外交は「仲良しごっこ」?

「1991年から97年までに、ロシアは武器専門家、軍事技術のエキスパート、5205人を中国に派遣した。同時に中国は軍事専門家1646人をロシアに送り込んでハイテク軍事技術を取得させた」(ハドソン研究所報告書)。

一方においてロシアは中国が敵視するインドへ、核技術、最新鋭武器システムを供与し続けたが、それらは中国に供与した武器より高性能であると言われた。

かくも複雑で輻輳した中国ロシア関係であるがゆえに、両国は「友好国」ではありながらも、米国に対峙するための「軍事同盟」の再構築には至らないのである。
いや現段階では、そうした発想さえなく、現在の中ロ関係は「三つのNO」に代表される。すなわち「軍事同盟ではない、反対することはしない、お互いが軍事標的とはしない」。

米国の対中強硬路線への転換は背後のロシアの動きも十分計算にいれているように思える。

 
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