水銀被害を二度と繰り返さないためにも、世界記憶遺産への取り組みは重要だ。水俣市での発生後、国策で隠蔽されたことによってその後新潟で発生し、海外でも同様の被害を出した。国内では風化されつつあるが、新興国からは「水俣病の教訓」を得ようと多くの学生や研究者が訪れている。
昨年1月、ジュネーブの国際会議において水銀規制を定める条約名を「水俣条約」にすることが決まり、同10月に熊本県で行われた国際会議には約140カ国の関係者が集まり、「水銀に関する水俣条約」が採択された。
こうした貴重な資料を世界が共有することで再発を防止できる。日本の経験や知識が世界に果たすべき役割は大きい。
水俣病資料の世界記憶遺産目指す 語り部の会
水俣病患者らでつくる「水俣市立水俣病資料館語り部の会」(緒方正実会長)は、水俣病に対する偏見や差別の根絶に役立てるため、関連資料を収集し「世界記憶遺産」への登録を目指すことを決めた。5月1日の水俣病犠牲者慰霊式に合わせ、蒲島郁夫知事や石原伸晃環境相に支援を求める。18日の総会で確認した。
水俣病の公式確認から58年。患者や関係者が高齢化しており、資料を散逸させないためにも収集と登録を急ぐべきだと判断した。
登録する「資料群」に想定しているのは▽公式確認前後の住民の生活史を裏付ける民具▽学識者や支援者が保有する文書や写真・映像▽関連裁判資料-など。水俣病資料館は昨年度、全国で資料の所在を調査し、患者や学者らの個人宅などで多数の資料を確認した。語り部の会は今後、国などに支援を要請しながら、調査研究・収集の実施主体などを検討していく。大学にも協力を求めていく考え。
緒方会長は「教訓を後世に伝えるためには資料を集め、残しておく必要がある。水俣病問題解決のヒントも見つかるかもしれない」と話している。
記憶遺産は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が1992年に創設。各国政府や自治体、非政府組織、個人が推薦する。国内では、福岡県田川市など推薦の「山本作兵衛炭坑記録画・記録文書」などが登録されている。
水俣病事件史に詳しい丸山定巳・熊本大名誉教授(社会学)は「登録を目指すには市立水俣病資料館などにある資料だけでは不十分だろう。市だけでなく、もっと大きな枠組みで収集すべきで、原因企業チッソの協力も必要」と指摘している。(隅川俊彦)
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