2009年12月7日、フジモリ元ペルー大統領の長女ケイコさんが、次期大統領選挙への立候補を表明した。
アルベルト・フジモリ氏は、1996年の武装集団によるペルー日本大使公邸襲撃・127日間の戦いで日本人の多くに知られるようになったが、ペルー国内での支持率は高く、ピーク時は65%を誇った。これは小泉内閣の絶頂期に匹敵する。

2005年10月6日、憲政会館において日本で最後になったフジモリ氏の講演を思い出した。内容を少し紹介する。

「貧困と領土紛争が絶えない状況で大統領就任し、まず隣国との間での領土問題を棚上げし、経済対策に専念した。貧困というのはテロの温床になる。治安回復には豊かさが必要だった。領土問題棚上げは、同様の問題を抱える隣国チリにおいても歓迎され、以来両国の関係は良好だった」

「90年代まではペルーの政界に日系人は少なかった。スポーツ芸能界には多かったが、政治に影響力を及ぼすようになったのは初めてのことだった。だが、ヨーロッパ系移民からは、日系アジア人が大統領選挙に立つのは侮辱だ、と言われた」

「大統領に就任してからは、大統領府には居らず、テロ問題地を歩いた。部屋の中で報告を聞くより自ら地方に出かけた。貧民層はテロのメッセージを多く持っている。テロと戦うには旧来の手法ではできない。武力を使うのは間違いだ。現職時にはテロ対策のための武器使用は禁止した。テロ減少には貧困層の底上げが重要と考えたからだ」

「ペルーから見た日本人像は、敗戦の貧しさから努力によって経済発展させ、60年以降の日本は奇跡的な経済発展を遂げたという尊敬の念があった。そして我慢強さという点において、日本人とアンデスの子孫とは共通できる」

「日本大使公邸襲撃事件のときの決断については国民の85%の支持を得た。テロリストは大統領との直接対話を求め、できなければ青木大使(当時)を殺すと要求してきた。では殺せ!要求は飲まない、と言った。そして次の要求も無視した」

「今小泉さんたちは改革をしようと頑張っている。日本は改革でいいが、ペルーの場合は根底が荒れているので革命でなければいけない。実は改革より革命のほうが簡単なのです。革命というのは前任者をすべて殺して否定すればいいのですが、改革というのは今あるものを守りながら変えていくから難しいのです」

ペルーの状況や行ってきたこと、日本との違いなどををいろいろな角度からお話してくれた。

周りの支援者からは、フジモリ氏のペルーへの帰国は危険であり、中止を求める人が多かった。だが、フジモリ氏は国際弁護士を伴ってペルーに帰国し、次期大統領選挙へ出馬する旨を宣言した。「困難な状況でも私を信じて待っている支持者・国民がいる、行かなければならない」と固い決意を語った。そして次にあげる公約は「人種差別の撤廃」といった。差別される民族はレストランにも入れないしアイスクリームを注文することもできない、こうした状況は一日も早く是正しなければいけないと。

帰国途中のチリで逮捕され身柄を拘束されたというニュースがあったが、あれはフジモリ氏と良好な関係にあった大統領の計らいで、ペルーに帰せば殺されるかもしれないので強引に引き止めた末のことだった。この間、フジモリ氏はチリ国内で最も警備の厳重な士官学校内におり、学生たちに講演をしたり、自由にインターネットを通じて支援者各位へメールで現状を知らせていた。ペルーのみならずチリでも人気が高かったのだ。

帰国に関しては弁護士を通じて政府と交渉し、逮捕はしないという確約をしていたようだが、やはり帰国後は逮捕された。法治国家として未成熟な状況では、国際弁護士より軍・警察を把握している者が正しいのだ。国民や近隣諸国から人気の高い人であったがゆえに、殺されることはなかった。だが、犯罪者として裁かれ、報道され、収監されている。国際政治の場ではよくあることで、またいずれ多くの国民に迎えられる時がくるだろう。

今後のケイコさんの活躍に注目したい。
 
 
ロイター通信から転載

フジモリ元大統領の長女、ペルー大統領選に出馬表明

[リマ 7日 ロイター] ペルーのアルベルト・フジモリ元大統領の長女で国会議員のケイコ氏(34)が7日、来年4月に行われる大統領選挙への立候補を表明した。景気浮揚による貧困対策を重視すると訴えている。

 世論調査によると、ケイコ氏の支持率は約20%で、対抗馬となるトレド前大統領やカスタニェダ前リマ市長とほぼ並んでいる。ただ専門家は、大統領在職中の犯罪により現在服役している父親の影響で、支持率をさらに伸ばすのは難しいと指摘している。

 父親が服役中の刑務所にほど近いリマ郊外のスラム街で演説したケイコ氏は、「すべてのペルー人のために、何より貧しい人のために国を治める」と強調。国民にとって平等な経済成長が必要だと、貧困層の支持を訴えた。

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