鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第112号 を転載

中露韓の北朝鮮包囲

ロシアが極東、樺太周辺で陸海空、3軍共同の軍事演習を行っている(7/13~20)。参加人員16万人、ソ連崩壊後、最大規模であり16日にはプーチン大統領が直々に視察している。実はこれに先立ち、ロシア海軍は5日から12日まで、中国海軍と初めて日本海で合同演習を挙行した。
つまり日本海周辺で2週間以上にわたり異例の軍事演習が繰り広げられている訳だ。作戦目的は日本ではないかと疑う向きもあろうが、真の目的は北朝鮮である。ロシアも中国も北朝鮮の同盟国だったのだが、突如、対北朝鮮で団結したのには訳がある。

北朝鮮が核爆弾を保有しているのは間違いなく、弾道ミサイルの開発に成功したことも間違いないが、では核爆弾を弾道ミサイルに搭載すれば核ミサイルが出来上がるかといえば事はそんなに簡単ではない。
北朝鮮が保有している核弾頭は重量約1トン、今の北朝鮮のミサイル・エンジンでは重すぎてとても米国までは届かない。日本ぐらいまでは届きそうだが、別の技術的問題がある。射程1000km以上の中距離弾道ミサイルの場合、弾頭は一旦大気圏外に出て、頂点を極めて再び大気圏に入って目標地点に向けて落下する。

弾頭は重力により加速されるから、気圧により加速度的に加熱され、摂氏数千度に達する。通常の金属では熔解してしまうから、特殊合金と断熱材の技術を必要とする。これを再突入技術というが、北朝鮮にはこの技術がない。

したがって日本に向けて核弾頭を発射しても途中で熔解してしまう。北朝鮮のミサイルで弾頭を熔解させずに運搬できる距離は精々500kmである。射程500kmの核ミサイルの照準に収まる国は韓国、中国、ロシアしかない。

中国と韓国が昨今急速に接近している真の理由がここにある。今春のムスダン騒動の最中、ロシアの軍艦が入港したのが同盟国北朝鮮の羅津ではなく、韓国の釜山であった理由もまたここにある(4/14)。中、露、韓は北朝鮮の核の脅威に対抗すべく同盟したと言っていい。

明日は参議院選挙だが、日本の行方を決めるこの選挙に各国は注目している。選挙干渉としか思えない言動が目立つ中韓に対して北朝鮮が沈黙を保っているのは注目に値する。おそらく北朝鮮の戦略は中露韓同盟に対して米日朝同盟で対抗する構想であろう。
だとすれば選挙後、北朝鮮は日本に強烈な同盟工作を働きかけてくる筈である。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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