あらゆる思惑が交差しあい、情報や解析が散乱している。ただ間違いなく言えることは、いつ大戦がはじまってもおかしくない状況だということだろう。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第94号 を転載

北の核実験は大戦の予兆か?

一昨日、北朝鮮は核実験を実施した。核爆弾の量産が可能になった事を証明したのである。しかし、まだ日本や米国に核ミサイルを撃ち込む技術は完成していない。弾道ミサイルは発射されると一旦、大気圏外に出て頂点に達した後、大気圏に再突入して目標に落下する。
大気圏再突入の際、加速して落下するため弾頭は数千度まで加熱される。通常の金属なら熔解してしまうので、特殊合金と断熱材の技術が不可欠である。これを再突入技術というが、北朝鮮にはこの技術がないのである。

ところが再突入技術を持っているのはイランである。1月28日、イランは猿を宇宙ロケットに乗せて、発射、猿は無事生還したと発表した。この真偽は定かではないが、2011年10月12日にも、イランは宇宙猿実験をしたことを発表している。しかもこのときは失敗したと正直に認めている。
この二つの事実は、イランが再突入技術の開発を以前から継続的に行っており、一定の水準に達していることを示している。

イランは2009年2月に衛星打ち上げに成功しており、昨年12月の北朝鮮の衛星打ち上げはイランの技術供与による。衛星打ち上げ技術は長距離弾道ミサイル(ICBM)技術と同一であるが、イランと北朝鮮は技術交換協定を結んでいると見られる。
つまり、イランがICBM技術を供与する代わりに、北朝鮮は核爆弾技術を供与する。今回の北の核実験成功により、北の核爆弾技術はイランに渡り、再突入技術を持つイランは核ミサイルを完成させられる。

イランはかねがねイスラエルを核攻撃すると示唆しており、核ミサイルが完成すれば、その第1の目標がイスラエルであることは疑いがない。イスラエルはイランの核ミサイル完成以前に関連施設を空爆し破壊することを計画し、米国に協力を求めている。
従って今後数カ月以内にイランと米国が戦争に突入する公算は極めて高い。もしそうなれば現在、東アジアに集中している米軍の戦力は中近東に移動する。現在、空母機動部隊を始めとする米軍戦力は、中国軍の尖閣侵攻に備えて東アジアに集中している状態であるから、これが移動することは中国軍の目には千載一遇のチャンスに映るであろう。
つまり中東で戦争が始まり、それが尖閣に飛び火し米軍は二正面作戦を余儀なくされる。これは第3次世界大戦の勃発に他なるまい。


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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