軍事ジャーナル【1月7日号】を転載

天下大乱の年か?

年が明けると、とにかくめでたい。何故めでたいか?などとは深くは考えず、ともかく「めでたい、めでたい」と会う人ごとに言っていれば本当にめでたい年になるのだそうだ。
だから言う訳ではないが、昨年末はめでたくも金正日が死去し、今年はめでたくも天下大乱の年になりそうである。

北朝鮮は弱冠27歳の三男坊・金正恩が独裁者の後継に決まったようだが、こんな若造が親父がやったような恐怖の支配を継続できるとはとても思えない。では穏健な改革路線に転換できるかと言えば、それも無理だろう。穏健な改革というのはカネがあればこそ可能なのであって、カネがないどころか借金まみれになった北朝鮮で改革しようとすれば、内部のどこかを切り捨てなければならない。餓死者が出る経済状況の北朝鮮で切り捨てられるというのは家族ともども餓死することだから、誰もおとなしく切り捨てられたりしないだろう。
死なばもろともとばかりに金正恩に自爆テロでも仕掛けるか、それに便乗して独裁者の地位を簒奪しようというのが側近の本音だろう。

唯一北朝鮮に活路があるとすれば親父が残したたった二つの遺産、核兵器とテロ部隊を駆使して、韓国のソウルを占領することだ。北朝鮮の正規軍は燃料がない。だから韓国を軍事占領することはできない。だがソウルに燃料があるからそこさえ占領すれば北朝鮮正規軍は動けるようになり韓国統一戦争に乗り出せるのである。
もちろんこれは口で言うほど容易ではない。第2次大戦末期にヒットラーはこれと同じシナリオでアルデンヌの大攻勢を仕掛けた。バルジ大作戦という映画はこれを描いたものだが、作戦は失敗に終わりドイツの滅亡を決定づけた。

中国の状況も、これに負けず劣らず不安の種だ。バブル経済の崩壊はもはや止め度もないらしい。これまでの国防費の増額はこの経済的繁栄に支えられていた訳だから、不況はただちに軍事費削減に直結する。あの大した軍歴もないビジネスマン面をした胡錦涛国家主席の命令を素直に軍部が聞いてきたのは、大金が貰えたからだ。
カネが貰えないとなれば中国最強の集団である中国人民解放軍が、あの腐敗しきった中国政府の顔を立てておとなしくしている義理はない。なにしろ目の前には台湾と言う宝の山がある。猫の前にカナリヤの入った鳥かごが置いてあるようもので、餌が足りなくなれば鳥かごに手を出すのは当然の本能である。

年初から物騒なシナリオばかり紹介して、「めでたい、めでたい」と言うのは実は皮肉でも何でもない。真にめでたいと思っているのである。と言うのも、これらの予兆もまた欧州や米国、日本の状況も、これらは全て第2次世界大戦の戦勝国が形成した戦後秩序が崩壊していくプロセスを意味するからだ。
戦後65年以上にわたって我々を縛って来た矛盾と偽善に満ちた戦後秩序は今年終わる。

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軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。
<著作>
戦争の常識 (文春新書)
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