「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23(2011)年10月23日 通巻第3452号 を転載

カダフィの末路:予測したように天目山の武田勝頼になった
リビアは民主化が実現されず、血を血で洗う内戦、内ゲバになるだろう

カダフィが殺害されて、これからリビアはどうなるか?
もっとも地政学的考察に近い予測は東西弐分裂である。

カダフィ死亡のニュースを中国で聞いたが、淡々として客観的に中国メデイアは報道していた。
中東の「民主化ドミノ」が、つぎに中国を襲うという恐怖シナリオは、中国の論調からはすっかり消えていた。

本質的なことを考えてみると、あのカダフィ転覆劇は「民主化」ジャスミン革命の延長ではなく、完全な内戦だった。
トリポリとベンガジの対立構造に部族の主導権争いが加わり、ベンガジ派の勢いを観て欧米が次の石油利権を確保するために便乗したのである。

実際の戦争はNATOが主導した。
つまりベンガジ政権(国民評議会)は、NATOの後ろ盾がなければ成立せず、セルビアを瓦解させた空爆、サダムを葬った米軍。パターンは同じである。
制空権を外国軍隊が握っていたのである。

空爆の威力がどれほどのものかは蒋介石を支援したフライングタイガーの例をもちだすまでもなく、あのとき日本軍は勝っていた戦争に負けた。
その米欧買弁派だった蒋介石が、内戦でロシア買弁の共産党にまけ、国共内戦は数千万が内ゲバで犠牲となった。

▲ベンガジの陸軍戦闘力の中核はアルカィーダ

ユーゴがばらばらになったのも、チトー独裁が崩壊すれば、背後の外国勢力との代理戦争に発展したのは火を見るよりも明らかである。
ユーゴスラビアという幻想の共同体が解体され、六つの共和国の誕生という背後には、NATO、ロシア、イスラムの三つどもえの目視しにくい戦争があった。

ミロセビッチ、カラジッチ、サダムといった民族主義者を裁くのは欧米の論理であり、今度のカダフィ敵視も、ひたすら欧米的価値観をおしつけて、それが「民主」という形骸を当該国家に押し売りする。
欧米のテレビ報道は「民主化」の驚喜、狂喜にわく民衆の笑顔のみを伝えているが、エジプトでチュニジアで、政権打倒後がそうであったように、実際の現場で展開されている実態は、民主政治とはえらく遠い。

いずれ民主路線は破綻し、内戦に発展するだろう。当面は暫定的に民主化の過程へすすむ裡に欧米の政治指導者は選挙でかわるだろう。
カダフィに代わる強権政治家は、いま、リビア国民評議会の軍事力をおさえているアルカィーダにある。

嘗て三月の時点で小誌が予測したが、カダフィの末路は「天目山の武田勝頼」になった。
今後、リビアは向かう二年間はともかくとして、いずれ民主化のかわりに血を血で洗う内戦、内ゲバになる可能性が高いだろう。

 
 
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