日米安保は、条約を読めば分かるとおりアメリカの自動参戦を保証してはいないのだ。一歩ずつ自主防衛の態勢に近づく努力をしなければならない。

いつもながら、とても分かりやすく解説されます。

田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」 
2011-09-18
 を転載

間接侵略がすでに始まっている

この地球上には、残念ながら全ての国の人たちが豊かに暮らすほどの富や資源は準備されていない。そういう中で「よその国のことなんか知ったことか。俺の国だけは豊かに暮らすぞ」と言って、富や資源の分捕り合戦が行われている。これが国際政治の本質である―。

第二次大戦までの世界は、軍事力を直接使って富や資源の分捕りに行った。しかし、いまはもうそういう時代ではなくなった。軍事力が直接使われることがない代わりに、情報を操作することによって、あるいは自分の国が有利になるような国際協定などを提案することによって、富や資源を分捕ろうとする動きが日常的に行われている。ウソ、デマ、捏造の情報は至るところに氾濫している。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)なども各国が公平に競争できるように見せかけながら、アメリカの利益になるような仕掛けが隠されている。

中国や韓国が戦前の日本の行動を不必要に「侵略だ!」と騒ぎ立てるのは、中韓が、外交交渉で日本に対し優位に立つための情報戦争である。我が国はこれを情報戦争と認識できていない。だから「そんなに文句を言うのなら共通の歴史認識を保有するための研究会を作りましょうとか?」間の抜けたことをやっている。中韓に歩み寄ることは情報戦争に敗北したことになる。そして外交上何らかの譲歩を強いられ、富や資源を持ち出されることになる。

歴史認識は、それぞれの国によって違うのは当然である。ジョージ・ワシントンはアメリカにとっては独立と建国の英雄だが、イギリスにとっては植民地の反逆者である。ジャンヌ・ダルクはフランスでは救国の女性英雄だが、イギリスでは火あぶりの刑に処すべき魔女となっている。

TPPに参加して日本が具体的に何か得をすることがあるのだろうか。ただ菅総理に代表される「日本は規制が多い国である」との認識が、参加しなければいけないような雰囲気だけを作っているのではないか。日本は既に十分に開かれた国で、関税率なども平均すればアメリカよりも低いのである。工業製品の関税率は全てゼロである。米とこんにゃくの関税率が高いので、我が国の関税率は押しなべて高いと思っている人もいるが、戦後我が国だけが食料自給率を下げてきたのである。我が国の穀物自給率は既に30%を切っており、こんな開かれた国は我が国以外にはない、と言っても過言ではない。

アメリカはTPPによってアメリカの雇用を創出すると明言している。アメリカは資本投資や金融の自由化により、日本を相手にアメリカ国民の仕事を造りたいのである。TPP参加国の内訳を見ると、日米2カ国でGDPの9割を占める。アメリカはシンガポールやニュージーランド相手に雇用を創出できるとは思っていないと思う。日本が狙われているのだ。我が国がインフレで仕事がいくらでもあるのならともかく、デフレが十年以上も続き、仕事がない人がどんどん増えている状況下で、アメリカ国民にくれてやる仕事などないはずだ。現状でTPPに参加することは我が国にとって、なんら利益がない。まして、先人が明治維新以降、数十年努力して獲得した関税自主権を自ら放棄してどうするのか

こう言うとアメリカと衝突してどうなるという人たちがいる。私は、アメリカと真っ向から対立することを勧めているわけではない。我が国が置かれた現状を冷静に見れば、良好な日米関係を維持することは、中露などの悪さを防止するためには、当分の間必要不可欠である。しかし、日米の国益は一致しない。対立することが多い。アメリカはアメリカの国益で動く。例えば、日本と中国が紛争状態になったときにアメリカは、日本を守った方がアメリカの得になる場合にだけ日本を守るであろう。日本を守ることがアメリカの損になると判断した場合には、アメリカは簡単に日本を捨てるであろう。日米安保は、条約を読めば分かるとおりアメリカの自動参戦を保証してはいないのだ。

国際社会では、永遠の味方も永遠の敵もない。存在するのは国益のみである。アメリカとの良好な関係を維持する努力をしながら、我が国の国益を念頭に我が国も自主性を発揮しなければならない。一歩ずつ自主防衛の態勢に近づく努力をしなければならない。

我が国は、米中韓など外国からは言いたい放題言われている。これに対し我が国の政治家も外交官も、ほとんど反論さえしていないように思う。アメリカには国を守ってもらっているという負い目があり、中韓に対しては侵略をしたという誤った歴史観を持っているからだと思う。アメリカはアメリカの国益のために日本駐留を続けている。中韓は情報戦争として、ありもしなかった日本の侵略を糾弾しているのだ。それにも拘らず、我が国の政治は、米中韓などに尋常ではない気を使い、自分のことを自分で決められないのだ。そのために国を守る態勢を造ることもできない。これは既に我が国がこれらの国から間接侵略を受けているということだ。今のままでは我が国は危ない。

我が国が国を守ることを忘れてきた弊害が、いま次々に顕在化している。富と資源の分捕り合戦が行われている国際社会で、我が国の対応は本当に甘すぎる。我が国は、自分の国を自分で守ることを真剣に考える必要がある。アメリカに国の守りを依存していては、最終的にアメリカの言いなりにならざるを得ない。既に大国間の戦争が行われる時代は過ぎて、経済戦争の時代に突入している。経済戦争の時代には政治的に同盟国といえども経済的には敵になる。我が国がアメリカの言う通りにしていては、経済的には損をするばかりである。

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