「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23年(2011)5月9日(月曜日)通巻第3322号を転載

やっぱりそうか、そうだろうと思いました

パキスタン、米国の主権侵害に強い抗議、タリバン掃討作戦継続に障碍

オサマ・ビン・ラディンのパキスタン国内アブボタバードの隠れ家襲撃事件を、筆者は中国に旅行中に知ったので、5月3日時点での情報は中国語新聞と中国が出している英字新聞のみだった。

したがって欧米メディアや専門家の分析を知りたくとも、中国国内からはアクセスが不能だった。ニュースを初めて聞いたときは黒竜江省のジャムス(佳木斯)という町のレストランだった。偽情報かと思ったほどだ。

米軍の急襲作戦にはパキスタン軍が協力した、と聞いたが、あとで米軍単独行動とわかった。
となるとこれは、基本的にパキスタンの主権を侵害していることを意味する。

米軍の隠密ヘリコプターはアフガニスタンの基地を密かに出発した。ステルス・ヘリだが、パキスタン空軍は正体不明の飛行物体を確認し、スクランブル発進をかけたという(ウォールストリートジャーナル、5月7日)。
だが、見失った。

米軍ヘリは二機、ビンラディンの豪邸を急襲するが、一機が炎上したため、ビンラディンの死体と米軍乗員もろとも、証拠物件のコンピュータやビデオも押収し、一機で洋上の空母へ帰還した、と発表された。
米軍のミューラー統幕議長は作戦終了と当時にパキスタン陸軍ペルベス・カヤニ陸軍大将に電話でつたえた。

遺体はすぐにDNA鑑定がおこなわれ、水葬されたと米国が発表した。アルカィーダは、7日になって指導者の死を認めた。

さて、米軍の軍事作戦に対して、パキスタンの怒りがどの程度のものかというと、国家主権の基本を侵害されたことへの怒りである。

「米軍の単独軍事行動は受け入れられない」(パキスタン陸軍ペルベス・カヤニ陸軍大将)。しかし「パキスタン側が米軍の動きを事前に察知できなかったことを反省している」と奇妙なコメントを付け加えている。

外務大臣サルマン・バシールは「もし米軍が次もパキスタンにだまって軍事行動をとれば、われわれは作戦を妨害するだろうし、米軍への情報協力はあり得ない。それが今後の米欧のタリバン征討軍事行動に障碍となろうとも、われわれの責任ではない」とウォールストリートジャーナルのインタビューに答えた(同7日付け)。

「これは主権を侵害されたのであり、パキスタンが小馬鹿にされたのであり、恐るべき結果である」とするパキスタンは、米軍が次に要求しているタリバンの宗教的指導者オマル師の引き渡しは「難しいし、そもそもパキスタンはオマル師の隠れ家を知らない」と冷淡な姿勢を崩さなかった。

▲パキスタンには政府の統治の及ばない無法地帯があちこちに点在している

余談だが、ビンラディンが隠れていた豪邸は三年前からマークされていたといわれている。これも甚だしく疑問である。

東京のパキスタン大使館をみたことがありますか?
高度のアンテナ、情報発信基地としてすごい施設があるように、イスラマバードの外交街はパラボラアンテナが林立し、BMW、ベンツ、ビックがならぶ豪華ガレージ。プールつき。こうした政商的財閥が贅沢にくらす一角がある。

もっと皮肉なのはカイバル峠である。
パキスタンのペシャワールからカブールへ至る坂道、くねくねとひん曲がり、これを別名「密輸街道」という。

おどろくべし。カイバル峠へ至るパキスタン側の山道の両脇には豪邸、豪邸、豪邸。プール付き。車庫にはベンツ、BMW。豊田のランドクルーザ。屋上には見張りがいる。機関銃で武装している。
この世界に悪名がとどろく麻薬密輸ルートにパキスタン政府は手を出せないのだ。

こういうアンタチャブル地帯がパキスタン国内のあちこちにあって、アフガニスタン政府が全土を統治していないように、パキスタン政務の統治の及ばない無法地帯があちこちにある。

この実情を勘案すれば、ビンラディンの隠れ家を確信し、最終攻撃命令を出すまでには相当の時間がかかっただろうし、パキスタン情報部の一部の協力があっただろうと推察できるのである。

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