「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23年(2011)1月13日(木曜日)通巻3190号を転載

菅政権はTPPで「第二の郵政民営化」解散を狙っているのではないか?

日本の主要メディアがいきなりTPP賛成にまわってキャンペーンを始めた

TPPは米国の身勝手、日本は参加すべきではない。日本がおこなうべきは、むしろ米国とのFTA交渉である。
WTOが機能不全になる前に、各国は大急ぎで個別FTAの締結を急いでいるときに、日本は米国議会に遠慮して、米国政府に提言さえしていない。

TPPは日本を危殆に陥れる危険性を孕んでいる。
第一に農業が壊滅状態に追いやられる可能性が高い。むろん補助金制度など不合理な農政は改革するべきだが、この議論とTPPを結びつけない方が良い。

第二は金融サービス分野での、より一層の開放を米国は叫んでいて、郵政民営化が国民の郵便貯金を米国のハゲタカファンドが狙ったように、さらに日本のカネを狙っていることは明瞭である。
農業より金融とサービル方面に、米国の狙いがある。

第三に弁護士を増やせと要求している。和解社会、和を尊んだ日本社会に訴訟はなじまなかったのに、近年はちょっとしたことを裁判に訴える。国際係争が増えるとアメリカ人弁護士にとって日本はドル箱になりかねない。
すでに過去三十年、日本は米国の圧力に根負けして大店法など米国のいいなりの法改正、じじばばストアはつぶれ、駅前はシャッター通りになった。要するに日本は米国の法律植民地同然ではないのか。

第四にTPPはすでに米国、カナダ、豪州、ニュージーランドが加盟しており、この先約事項の拘束力が、もし後日日本が加盟すると拘束される。まさに不平等条約である。

第五になぜ、中国に加盟を要請しないのか、米国の動機の不純性がそこにある。日米豪カナダNZ程度の貿易の枠組みでは、日本のメリットは殆どない。

これに対して賛成側の論理根拠は、TPPに加盟して米国の安全保障の約束をさらに固定的に出来るとか政治的価値が高い等と吠えている。「これは平成の開国」であり、「TPPは黒船だ」という奇妙な論理である。
すでにTPPは19条2項で「安全保障を除外する」と明記している。政治的メリットはありえず、賛成論の基盤は成立しない。

▼『バスに乗り遅れる』という議論は本質のすりかえに過ぎない

TPPを突如言い出したオバマ政権の意図は火を見るよりも明らかだろう。
つまり「米国の雇用増大、輸出二倍」というはったり、選挙目当ての公約。このために日本市場をさらにこじ開けて米国農産物を買わせる。日本国内でもアメリカ人のジョブを増やすため、格好の材料として活用されるのだ。

ところが。
日本政府はTPP加盟を前提に六月に交渉に参加を表明する方向にある。
第一は財界の思惑がTPPと重なる。トヨタ、パナソニック、ソニーのような多国籍企業の論理が援用されている気配が濃厚である。

第二に「脳死状態」の民主党政権にとって絶好のチャンスになる可能性を見いだしたようである。
米国からの圧力があったのだろうが、TPP議論は日本でも、突如「政治配慮」として浮かんできた。しかも日本の主要メディアが何故か、産経新聞をふくめて前向きに検討を、積極的に参加を、これこそがグローバル化、バスに乗り遅れる等々、空疎なご託を並べて管政権に「ご注進」を始めたのである。

不思議な流れがふっと現れた場合、背後に巨大な動き、見えない政治圧力の存在がある。まして訪米した前原外相を米国は異例の厚遇でむかえているではないか。

小泉は郵政民営化という史上最悪の愚策を選択し、しかし選挙に打って出るときはマスコミを味方につけた。小泉チルドレンが夥しく誕生した。そして「政権交代」という奇妙なキャンペーンで、小泉チルドレンは殆どがきえてなくなり、今度は「小沢チルドレン」が百名も「間違って国会議員」になってしまった。
つぎの選挙で小沢チルドレンのほぼ全員が消えるだろう。

菅は、この二番煎じ、三番煎じを明らかに狙っている。
かれの脳幹には国家戦略、国益追求は不在。ひたすら目の前の選挙戦術としてTPP加盟を打ちあげ、選挙での逆転勝利を狙うわけである。
『週刊文春』の見出し。「小沢と菅、共倒れ民主滅亡――自壊するアホ馬鹿政権」(1月20日号)。だから自滅を回避する秘策、特効薬にTPPが突如、視野に入ったのではないのか。
結果的には国益を損壊さえ、国を売ることになるのではないか。
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