47ニュース 医療新世紀
医療問題 2010.09.14 を転載
医療観光、官民で推進 日本旅行中にがん検診
ターゲットは中国やロシア

日本への観光旅行にがん検診や病気治療などを組み込んだ「医療観光」に関係業界が熱い視線を向けている。主なターゲットは富裕層が急増している中国やロシア。海外に医療を産業として売り込もうとする政府の新成長戦略にも盛り込まれており、国や自治体も動きを活発化させている。

▽3泊4日180万
「日本での先端医療による検査、温かいもてなしをあなたに!」

7月9日付の中国主要経済紙に、日本の観光庁がこんな広告を掲載した。医療観光のPRで、先端医療機器と富士山の写真が並ぶ。同庁は上海市で6月中旬に開催された旅行関連の博覧会にもブースを出展。初の試みにもかかわらず、日本の大手旅行会社数社が参加、中国の業者が数多く訪れたという。

同庁幹部は「『意欲はあるがどうしていいのか分からない』という医療機関や業者も少なくない。大小を問わず橋渡しやプロモーションの手助けをしたい」と意気込む。

参加企業のうち「日本旅行」(東京)は昨年4月から中国人向けの「がん検診ツアー」を始めている。1泊2日で磁気共鳴画像装置(MRI)や陽電子放射断層撮影装置(PET)などを使って全身くまなく検査、その後は郷土料理などを食べながら富士山や京都を回るという内容だ。

平均的なツアー費用は3泊4日で総額約180万円。宿泊費などのほか、検診代約35万円も含まれる。同社の青木志郎・海外営業部中国担当部長は「参加する客は中国では超富裕層」と話す。

このツアーの2010年度の利用客について同社は約200人と見込み、今後はロシアなど対象国も増やした上で、13年度には医療観光全体で約2000人に目標を設定している。「高価な先端機器を導入したにもかかわらず、稼働率の低さに悩む医療機関にとっても魅力的な収入源になる」と青木部長。すでに多くの医療機関から問い合わせが来ているという。

▽5500億円市場
経済産業省も「医療は海外に売り込むべき産業の一つ」とみている。健康診断や検診を中心に市場規模は5500億円ともいわれており、観光庁や国家戦略室が相乗りする形で促進している。

福島県は4月、3泊4日のモニターツアーを実施。上海市の実業家ら3人が県内の病院でがん検診を受けた。参加者は整った設備や、ゆったりと受診できたことに満足したという。

このほか、今年に入って千葉県成田市や福岡市もシンポジウムを催すなど、地方自治体の取り組みも活発化している。

▽出遅れ
ただ、課題も少なくない。タイやシンガポールは国を挙げた誘致政策を取っており、ビザ取得要件緩和など受け入れ態勢が日本よりはるかに充実。韓国は専門の政府機関を設立し、国際的な宣伝活動に力を注ぐ。観光専門のシンクタンク「ツーリズム・マーケティング研究所」の高松正人社長は「日本は半周遅れどころか、他の国はもうマラソンを走り終えてるくらい」と国際間競争の厳しさを指摘。医療通訳の不足や医療紛争への対応などの問題点を挙げる。

現時点でサービスの内容は検診がメーンだが、一部の医療関係者からは「治療分野に広がり、国内医療を圧迫するのではないか」との懸念が出ている。

日本医師会も中川俊男副会長が6月9日の定例記者会見で「まずは地域医療の再生だ。保険診療で受診する日本人の患者が、自由診療の外国人患者の後回しになる可能性もある」と発言するなど、慎重な立場だ。

高松社長は「医療を福祉の視点で考える日本では、ビジネスの手段とすることに抵抗も大きい。できるところ、やりたいところから無理なく始めるのがベストだ」と話している。(共同=宮川さおり)(2010/9/14)