鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第117号 を転載

シリアを空爆せよ

米国がシリアを空爆しそうな情勢である。マスコミは例によって「本当にシリア政府軍は化学兵器を使用したのか?」などとブッシュ時代の、いわば時代遅れのネタを振り回しているが、この際世迷言はやめた方がいい。

昨年からシリア政府軍が化学兵器を使用したという報道は、何度も繰り返されており、シリア政府軍が化学兵器を半ば公然と使用しているのは周知の事実と言っていい。だがオバマがそれに対して慎重な姿勢を示したのは、確実な証拠を掴みたかったからだ。ブッシュの二の舞を避けたかったのである。

今回オバマは「シリア政府軍が化学兵器を使用した」と断言しており、確実な証拠を手にしたことは間違いない。弁護士出身のオバマは経営者出身のブッシュと違い憶測を証拠に優先させる事はしないだろう。

オバマ政権から証拠を提示されたと見られる与野党の議員たちも使用については疑っていない。米議会は攻撃には慎重だと伝えられるが、これは政権と議会のよくある政治駆け引きの一幕であろう。キューバ危機のときだって、ケネデイ政権と議会は対立したのである。

英国下院が反対を議決したのは「確実な証拠がない」からだが、つまり英国政府は議会に証拠提示できないでいる。これすなわち米国が英国に情報を提供していないことを意味する。オバマの英国嫌いは有名だが、第2次世界大戦以来の情報交換協定を破棄したとは驚きである。

今後、英国が参戦に転ずる可能性はあるが、もし参戦を見送ればかつてのような対等な同盟国ではなく、従属国の立場に追いやられるのは確実だ。ここで相対的に地位の向上が見込めるのが日本である。もし集団的自衛権の行使を明言すれば、英国に取って代わって米国の対等な同盟国になることも夢ではない。

空爆は限定的で小規模なものになると見られるが、シリア政府軍にとってやはり痛手である。化学兵器の使用を控えざる得ず、反体制派は勢いを盛り返すのは確実だ。リビアの例などを見れば、来年半ばにはアサド政権は崩壊するだろう。シリア政府軍から離脱者が増えれば年内崩壊もありうる。

中近東は民主化と不安定化が同時進行しているが、日本からみれば北朝鮮の同盟国が消滅することはいいことである。

**********
チャンネル桜で、集団的自衛権の行使と米国の思惑について解説した。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

リンク
メルマガ:鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

<著 作>新刊 領土の常識 (角川oneテーマ21)

 

国防の常識 (oneテーマ21)
戦争の常識 (文春新書)
エシュロンと情報戦争 (文春新書)
総図解 よくわかる第二次世界大戦
写真とイラストで歴史の流れと人物・事件が一気に読める