鍛冶俊樹の軍事ジャーナル
第74号(9月13日) を転載

首相官邸の有事演習

「あなたの提言が活かされたのですよ」とある政府関係者から言われた。

先週、一部マスコミで報道された「来年度から首相官邸が主催して有事想定の図上演習を行う方針を固めた」についてだ。
私は拙著「国防の常識」の最終章で「首相官邸の権限強化として自衛隊統合幕僚監部を防衛省から切り離して首相官邸直属にせよ」と提言している。この提言が切っ掛けとなって方針が固まったという意味である。
もともと「首相が中心となった有事演習を実施せよ」との意見は防衛省OBなどに根強くあったから、必ずしも拙著が切っ掛けでもなかろうが、8月10日に拙著が出版され、竹島、尖閣と国防上の危機が相次ぎ、拙著を手に取る政府関係者は少なからずいたようだ。方針確定を後押しぐらいはしたかも知れない。

ではこの政府方針を支持するかと言えば、答えは「ノー」
まず来年では遅すぎる。今年、いや今月中に実施すべきである。
図上演習は実動を伴わない単なるシミュレーションだが、それでもやってみると指揮命令系統の問題点が浮かび上がって来る。
おそらく首相は自分の指揮権限が明確でないことに直ぐに気が付くだろう。現在の自衛隊法では最高指揮官は首相と防衛大臣と二人いて二重指揮の混乱は避けられない。指揮の一元化の必要を首相が認識するだけでも大成果である。
拙著ではそれを見越して、統幕を官邸に組み込んで指揮の一元化を図っている訳だ。だが問題点はこれだけに留まらない。例えば海上自衛隊と海上保安庁の一元的運用なども課題となる。

拙著では海自も防衛省から切り離して海保および水産庁と一体化して海洋省の創設を提言している。事実上の海軍省の誕生である。こうなれば防衛省解体の方向は避けられず、航空自衛隊は国土交通省と一体化して航空交通省これすなわち空軍省。陸上自衛隊は警察庁、総務省と一体化して内務省、事実上の陸軍省の誕生である。
最後に防衛省内局は各省国防局となる。だから拙著最終章は「防衛省を解体して総力戦体制を確立せよ」。随分大胆な提言だと思われようが、基本的に省庁再編だから現行憲法下でも可能だし、改憲となれば名称が陸軍省、海軍省、空軍省と改まるだけである。
首相官邸で図上演習を繰り返せは、問題点が浮かび上がりその解決のためには上記提言の方向を模索せざる得なくなるだろうが、いかんせん来年度からでは遅すぎるし年1回では少なすぎる。今月から毎月やるべきだ。

ちなみに図上演習は実動を伴わないと書いたが、必要に応じて一部、実動部隊を参加させることは簡単だ。尖閣防衛の図上演習なら、その想定に応じて自衛隊が実際に尖閣に展開訓練する実動演習を組み込めば、より実際的なシミュレーションとなる。
もしここまでやるなら、野田さん、森本さん、支持してやってもいいよ。
 


「国防の常識」出版記念トークライヴ再々演のお知らせ

上記のように、8月10日に角川から拙著「国防の常識」が出版され、同日銀座にて出版記念トークライヴ開催、好評に付き9月1日に再演したが、ご要望にお応えして28日、再々演する。(本書の販売も)

トーク:鍛冶俊樹(かじとしき) 
唄:相馬瑞加(そうまみずか)  相馬 瑞加 | Facebook
ピアノ:CHIKA  Chikaのホームページ

出版記念トークライヴ
日 時 9月28日(金) 19:30開演~21:30
会 場 伽藍(がらん)バー http://www.ghalan.com/
東京都中央区銀座6-4-8曽根ビル地下2階
参加費 5000円(2ドリンク+軽食付き)
申込先 伽藍バーに電話で予約。
電話:03-3289-3600 
営業時間18:00~24:00 日曜は休み
メールでも受付け可:件名を「トーク申し込み」として、お名前と電話番号(できれば携帯の)を明記し
GBE02055@nifty.ne.jp へ送信。
定員20名

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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<著 作>
新刊 国防の常識 (oneテーマ21)

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地政学や軍事はもちろん、国民、経済、情報、文化など、5つの視点からの防衛体制を、東日本大震災、尖閣問題、北朝鮮や中国、アメリカの動向を踏まえながら解説する必読書。

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