「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年7月11日通巻第3700号 を転載

「団派上位」。胡錦涛、土壇場でついに政治主導権を確保
各地の党委政法委員会から公安局長兼務を次々と排除

筆者は過去数年、講演でよく比喩したことは「中国では石川五右衛門と長谷川平蔵は同一人物である」という怪異な事実だった。すなわち大泥棒が取り締まりの長をかねているのである。
それも司法は三権分立からほど遠く、判決は党幹部の言いなり、地方の公安トップは党書記につぐほどに権力がある。検察は恣意な捜査、幹部の取り締まりは紀律委員会だが、これとて党幹部の顔色を窺い、権力のありかを確かめて動き出す。

その腐敗型政治家の典型は薄煕来事件で連鎖失脚はまぬがれたものの、事実上、政治的影響力を失った周永康(序列九位)である。
周は薄の朋友だった。しかも周は前任=李長春を受け継いだ『法輪功』弾圧の責任者でもあり、1999年に全土660の行政単位に設置した公安オフィス(非公然の弾圧監視公安組織)の実績をバックに政治局常務委員会入りした。誰もが周を嫌ったが、手を出せなかった。

胡錦涛は、薄煕来事件を奇貨として、この腐敗の元凶のような公安と政法委員会の癒着を断ち切る路線に大きく舵を切った。瞠目すべき事態の出来である。

英誌『エコノミスト』(2012年6月30日号)に拠れば、各地の党上層部の人事において、公安局幹部出身の書記兼務が顕著に排除され始めた、という。現実に「省レベル30のうち、わずか9名が党政治法律関係委員会トップに選ばれた」。

この漸減傾向は顕著となっており、「既に2010年に党中央組織部は「党委員会政法委員会の公安トップとの重複を避けよ」とする布告を出していると『南方週刊』が伝えている。

したがって、こうした文脈から言えば賀国強(現政治局常務委員、序列八位)の後釜に、たとえば孟建柱(国家安全部長)などの公安出身者が就任する可能性は極めて薄くなった。中国の国家予算で国防費が最高と誤解しがちだが、国家安全部と公安の治安対策費用は、国防費より多い。
最強の既得権益組という意味では軍と同等である。


▼北京市トップを団派が牛耳る

そして異変が起きた。
次期執行部選抜の前段階である党大会代表選抜、各地の全人代代表委員ならびに新書記局人事に於いて、団派の躍進がめざましいが、ついに守旧派の牙城=北京で、党書記に団派の郭金龍が就いたのだ。

北京市党書記といえば中国共産党の花形、実力者が治める。現北京市書記の劉棋は上海派で江沢民に近く、前任リリーフの王岐山は金融に明るいが太子党だった。
この北京の書記新人事によって全土31省(特別視を含む)すべての党大会代表人事(形式的は選挙)が終了した。

北京市書記に団派がなったことは「意外」と受け止められたのも、郭金龍はすでに65歳。従来のしきたりに従うと45歳を超えての地方政府書記就任は珍しく、したがって二期にわたる可能性は薄いからである。

上海、重慶、天津は依然として上海派がおさえているものの北京、広東、湖南、内蒙古、黒龍江省など12省を明確な団派が握ったことを意味し、他の16省の殆どが中間派だ。
とりわけ広東省、湖南省、内蒙古省は団派ライジングスター等が抑えている。上海派の牙城=上海を囲むにはまだ距離はあるとはいえ、派閥均衡から言えば「団派上位」となった。

前々から指摘してきたように次期政治局常務委員会は現行九名の定員を七名に減員する方向で胡錦涛は昨秋来、党内ならびに長老を説得してきた。理由は政法系担当を常務委員会という最終意思決定機関から排除するためである。軍トップが政治局常務委員会から排除されているように。

もし政治局常務委員会が七名となれば、習近平と李克強をのぞいて空席は五名。下馬評に挙がった人々も、だんだんと可能性が希釈化してゆく過程にある。
確実なのは王岐山、王洋、李源潮、劉雲山あたりか。
そして団派から第六世代のリーダーが一人か二人、いきなり浮上する可能性も否定できない状況となった。

 
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