毎日新聞 3月11日(金)を転載

イスラム教徒の人口が世界3位のインドで、「治安当局から無実の家族らが射殺された」と政府に訴えるイスラム教徒の告発数が、01年以前と以降の各9年間を比較すると約4倍の144件と激増したことがわかった。

訴えを受理した政府機関「国家人権委員会」が毎日新聞の取材に明かした。当局側は正当防衛を主張しているが、告発側は銃撃戦を「でっちあげだ」と非難、国際人権団体も「偽りの銃撃戦(フェイク・エンカウンター)」と呼んで真相の究明を求めている。

米国主導の「テロとの戦い」を支持したインドには、隣国パキスタンとの確執を有利に運ぶ狙いがあった。しかし、国内では逆にテロ事件が多発、事件を防げない当局への国民からの風当たりが強まっている。「銃撃戦」はこうした状況下で増え、イスラム教徒からの訴えは92~00年まで39件だったのが、01~09年の間に144件に。ヒンズー教徒からの告発件数もほぼ2倍増となったが、人口比1割のイスラム教徒の増加ぶりが際立つ。ニューデリーの治安当局は取材に「一切コメントしない」としている。

【ことば】偽りの銃撃戦(フェイク・エンカウンター)

治安当局が「犯罪者側が発砲したため銃撃戦となった」と虚偽申告するケース。弁護士によると、無抵抗の市民を人けのない場所に連行、射殺することが多い。テロ事件捜査の実績を偽装する狙いがあるとみられ、「真のテロ犯を逃している」との批判がある。

【ニューデリー杉尾直哉】