山本善心の週刊「木曜コラム」 を転載
小沢新党の行方
時局心話會 代表 山本 善心
「民主党」の小沢一郎元代表ら50人は、2日輿石東幹事長に離党届を提出。これで小沢氏らは新党の立ち上げに踏み切ることになった。一方、野田首相は、自民・公明両党の協力を得て社会保障・税一体改革関連法案の成立に突き進むことになる。小沢氏らが新党を結成すれば、衆院では民主、自民に次ぐ第3会派となる。さらに「新党きづな」、「新党大地・真民主」との統一会派も検討されている。
「民主党」は衆院で289議席から251人となるが、かろうじて過半数は維持した。しかし、民自公による「3党合意」は既存政党に対する不信感と危機感をもたらしている。国民は政界再編に対する期待も高いが、たとえ人気がなくても「小沢新党」に期待する声も強い。
「自民党時代から続いてきた、自らの権力を守ることを最優先させる『小沢政治』は、今回の離党劇で完全に終焉を迎えたのではないか」(2012,7,3産経新聞主張)。この文言は小沢氏が政党を作っては壊すたびに論評された常套句であるが、小沢氏はその都度力強く蘇ってきたものだ。今回は「第3極」の動きが注目されているが、小沢氏ら新党の動きが台風の目になるとの見方もある。
壊し屋ブランドの歩み
今回、小沢氏は4つ目の新党結党に踏み切る。これまで93年6月に「自民党」を離党して以来、「新生党」、「新進党」、「自由党」を作っては壊す繰り返しであった。この20有余年、日本の政界再編は小沢氏に始まり「小沢政局」で動いてきたといっても過言ではない。
これまでの経緯を辿ると、最初の「新生党」結党は竹下派の分裂から始まり「小沢・羽田」氏らが「自民党」を離党して「新生党」を結党した。そこでは、7党1会派による細川政権が誕生したが、短期政権に終わっている。その後「新生党」を解党して、「新進党」になったが、これも解党し、98年、「自由党」を結党する。
「自由党」は「自民党」と連立したが、2000年4月連立を解消。2003年9月、「民主党」と合併した。しかし、今回「民主党」からも離党することになる。小沢氏は93年に「自民党」を離党して以来、離合集散を繰り返してきた。それゆえ、周囲から「壊し屋」と言われ、その都度警戒と冷淡な扱いを受けている。にもかかわらず、これまで生き残ってきた最大の要因は「正義と民」を錦の御旗とする政策と政治姿勢にあった。
小沢政治は「正義と民」
小沢氏は、この20有余年、その都度政敵から批判を受け、もうこれで政治生命は終わったと何度も言われながら息を吹き返してきたのはなぜか。
これは小沢政治が基本姿勢や政治理念を掲げて、政策と政界再編に挑戦したからだ。国民は新しい世界を渇望している。小沢氏は、野田政権の消費税増税に反対し、野田首相が国民との約束を守らないから民主党を離党すると言い大義を貫いた。
小沢氏は、6月22日「新しい政策研究会」で「我々は、選挙の時に行政の仕組みを抜本的に大改革して無駄を徹底的に省き、新規政策の財源に充てる。それなくして大増税だけが先行するのは、『国民』に対する背信行為だ。我々の主張が『正義』だと確信している」と言った。しかしながら、鳩山内閣の時代は年6兆円近い「子ども手当」のムダ遣い政策に手を染めたが、その後修正された。さらに「国民の生活が第一」と主張したが、社会保障のバラマキで赤字国債と歳出増大を招いた。いまだにマニフェストを実行せよと言うが、その財源はどうするのか。いくら「正義と民」と言っても「言うだけ番長」では仕方がないとの論調も多い。
「韓流ドラマ」の時代劇に出てくる将軍が口グセのように言うセリフは「正義と民」である。つまり、小沢氏にとって消費税増税の反対は格好の大義であり、「錦の御旗」である。しかし、小沢新党は何をやるのか、具体的な政策が何も示されていない。今、小沢新党に国民が期待するのは官の無駄な歳出カットである。
小沢夫人まで小沢離れ
いま小沢氏を取り巻く身辺状況が一層厳しさを増している。まず、身内である和子夫人から「離縁状」を突き付けられ、小沢氏が岩手の被災地に入らないのは「放射能が怖くて、秘書と一緒に逃げたからだ」と週刊誌で報じられた。さらに「小沢は岩手や日本のためになる人間ではない」と切り捨てた。
この原因については、いろんな情報や意見が飛び交っている。小沢氏は外に愛人がいて、20歳になる隠し子が一人いるなど、私的な暴露であった。これが事実なら和子夫人と小沢氏の信頼関係と愛情は冷めていて後に残るのは憎しみだけである。しかし、この問題は第3者がとやかく詮索する問題でもなく、夫婦の問題は複雑怪奇に他ならない。
それよりこの問題はあまりにもタイミングがよすぎて、財務省か執行部側が「小沢切り工作」のために使った手だ、との見方が拡がりを見せている。これまで小沢氏から多くの人が去っていったことは、周知のとおりである。小沢氏にとって最大の欠陥は人間関係の定着率が悪いということだ。これが不安定な党運営と小沢離れが繰り返し続いてきた所似ではなかろうか。権力主義者と独裁者に共通する考え方は大義のためなら人を人とも思わぬ冷酷さにある。
民主党に残れば小沢氏は全滅
小沢氏が離党を急ぐ背景は、9月頃の衆院解散をにらむ思惑だ。これは3党合意での約束である。小沢氏は野田政権がマニフェストの不履行で完全に国民の信頼を失い、解散選挙になれば100議席を切るとの思いが強い。しかも小沢グループは選挙基盤の弱い1年生議員が大勢で民主党にいれば生き残りは難しい。
一方、国民に負担をかける消費税増税は「3党合意」で民自公が結託した政策実行である。次の解散総選挙は自民が伸びず民主は大敗となり、第3極が大量の票を取ることが各種世論調査で明らかになっている。それなら、一日も早く小沢グループとして離党者の意思を固め、次の衆院解散をにらんだ生き残りの準備を急ぐしかない。今、小沢グループにとって選択の道は離党しかないのである。
「自民党」の狙いは、小沢氏を切って「民主党」を分裂させ、解散させるとの見方がある。自民党は増税の不人気を「民主党」に押し付けて決着したい。一方、小沢氏らは反増税と反原発、行革を掲げて「小沢新党」の生き残りと政界再編が一挙に解決できるマニフェストを作成中だ。つまり、「橋下維新の会」「みんなの党」との政策は変わりなく、多少のずれは調整すればよい。小沢新党にはあらゆる選択肢がある。
小沢グループは第3極に乗れるか
とはいうものの、新党立ち上げには、先立つものは莫大な資金である。今の「民主党」が57人で結党したときは15億円以上の資金を必要とした。「小沢新党」は初期投資として最低30億円は必要とみられている。6月28日筆者らは小沢側近を囲む会を銀座の中国料理店で行った。その席で「新党の金策は大丈夫なのか」と議員に問うたところ「30億円の資金目途がついている」と言っていた。
彼らは離党する議員は、小沢一郎氏の理念と政策に共鳴する仲間に限定したいと考えている。それゆえ、執行部が小沢グループに対して行ったような強引な説得はせず、無理に慰留することは控えてきた。目先の利害しか考えない人物はいらないとは小沢グループ大勢の意見である。
既に述べてきた通りであるが、次期衆院選で民主党の議席は激減、自民党も伸び悩む中、第3極が議席数をどれだけ増大させるかに焦点が絞られてこよう。先に述べたとおり小沢新党は第3極の波に乗るしかあるまい。小沢グループは比例議員が多く、選挙基盤がないので風を吹かせて当選させるしかないのだ。
6月20日亀井静香議員に久しく会う機会があった。氏は挨拶の中で「石原新党」と小沢離党組が手を組むことに熱心であった。石原氏の小沢嫌いは有名であるが、解散が間近に迫れば連携する可能性が高いとの見方もある。石原人気に便乗して亀井・小沢の選挙名人が手を握れば小沢グループは議席の安定に結びつくかもしれない。
それ以外に、「小沢新党」は「減税日本」の河村たかし氏、「日本一愛知の会」の大村秀章氏、「新党大地・真民主」「新党きづな」などとの連携が進行中だ。さらに「大阪維新の会」の橋下徹氏との連携も成り行き次第となる。政界の“一寸先は闇”と言われるが、それを一番熟知しているのが小沢氏である。これからの政治は「第3極」の登場に国民の関心が集まる。増税反対、原発反対、行革賛成で政治理念と政策を同じくする政党が連携して新しい政治が始まろうとしている。小沢新党はイタリアのオリーブの木に見る政界再編を主導する起爆剤となる流れがこの先かすかに見えてくるようだ。
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