山本善心の週刊「木曜コラム」
日本を取り巻く国際情勢第340号2011年8月11日発行 を転載
日本統治時代に育まれた“日本精神”
~『自由時報』呉阿明董事長講演
時局心話會代表 山本善心
「日台アジア会議」の一日目は、台湾最大の発行部数を誇る新聞社『自由時報』の呉阿明董事長のお話を伺う。わが国の先人たちが台湾統治時代に何をしたか、また、今後、日台がどう協調していくべきかについて語られた。呉氏の正しい日本語と言葉のアクセントを聞き、古き良き時代の日本人の原点に会ったようなすがすがしい印象を受けた。
[呉阿明氏の講演]
台湾は現在人口2300万人がおり、13%が戦後、蒋介石によって連れて来られた外省人、残りの87%は日本統治時代、「生蕃」と呼ばれ、のちに高砂族に改められた原住民だ。台湾はもともと無人島であり、原住民も南方の島々から流れ着いた民族だ。そのほかに少数民族が13民族ほどあるが、言葉も生活習慣も異なり、いまでは30~40万人しか残っていない。多くの台湾人は完全な中国民族ではなく、混血児のようなものだ。
大正13年生まれの私は22歳まで日本人だった。戦時中、台湾人も3万数千人戦死している。私の従兄弟は当時南京に捕虜の監視のために行ったが、南京大虐殺の事実はなかった。
昭和20年に終戦となり、日本人は帰国の準備に追われ、警察も社会治安に干渉しなかったが、それでも当時の治安は蒋介石が来て戒厳令を布いたときよりもはるかによかった。その背景には日本統治時代に行われた教育によって我々に公徳心や思いやりが培われたことにある。我々の世代には古き良き時代の日本の生活習慣が身に付いた。
中国を恐れる日本政府
今度の東日本大震災の義援金は、世界中で台湾が200億円以上で一番多く、そのうち、政府は約2億円しか出しておらず、ほとんどが民間企業によるものだ。しかし、残念なことに日本政府は中国政府の反応を恐れ、当初予定されていた首相名義で感謝状が出されることもなかった。最もおかしいのは、台湾が国として最大の義援金を出しているというのに、日本政府は台湾からの留学生に対してだけ補助金を出していないことだ。
経済成長を軍拡につぎ込む中国政府
中国は安い労働力を武器に外国からの技術、資本金を仕入れて経済成長を続けているに過ぎず、非常に品格のない国だ。経済成長によって人民の生活がよくなるべきだが、いまでも農村戸籍の者は一日1ドルの生活しかできていない。中国は経済成長の大部分を軍事力の拡張に費やしているが、世界中のどこに中国を撃とうとする国があるのか。もはやアメリカですら国連の関係上、中国にはNOとは言えない。中国にNOといえるのは全世界で台湾だけ、それも『自由時報』紙だけだ(笑)!
今の馬英九政権は完全な反日政権だ。前回の総統選で、「死んで灰になっても台湾人である」と言ったが、当選するとあらゆるやり方はすべて中国寄りに変わった。経済も中国に生産拠点が移転し、台湾企業の倒産が増えた。台湾の市場流通が高いのは多くの企業が国外に移転しているからだ。
台湾の安全保障は日米同盟頼み
中国が台湾に千隻余のミサイルを向けているのは実際には日米を牽制するためである。台湾の安全は、日米同盟に頼るしかほかに方法はない。今回の「日台アジア会議」のような日台の超党派議員での話し合いを持つことは非常に大切だ。台湾は日米のサポートがなければ絶対に中国に呑み込まれる。安全面でも経済的でも日本なくして台湾はなく、日台の関係は切っても切れない関係にある。中国に台湾が呑み込まれれば日本も大変なことになる。
◇◇◇
このほか、総統選の行方について、日米に人脈を持ち、両国に根回しをした上で政治交渉を行っていた李登輝氏と、人脈がなく根回しに欠けていた陳水扁氏を例に挙げ、アメリカに人脈を持つ民進党の蔡英文主席が当選すれば馬英九政権よりも日米関係はずっとよくなる、との見通しを語られた。
その後の白熱した質疑応答の様子を一部採録する。
さらば!自虐史観、反日教育
質問者:日台は戦前からずっと良好な関係を築いてきたが、日本では戦後正しい歴史が教えられてこなかった反省点がある。台湾ではいまも反日教育がなされているのか。
呉氏:そうだ。一時は海外から帰国すると新聞、雑誌はすべて没収された。また、いまでも小学校から大学まで反日教育が行われている。私の一番上の孫娘は今年37歳になるが、日本人に対するイメージは世界的に一番悪いと思っていた。ところが、その後外資系企業に就職して日米両国に行き、一番いいのは日本、次にアメリカ、一番悪いのは中国人(笑)と認識を改めた。だから教育は非常に大事だ。あなた方が受けた教育は日本の教育ではなく、アメリカの教育だ。日教組は「戦争を起こして悪かった」「反省しないと」「謝らないと」と教え続け、日本人は自虐史観に陥って自信をなくしている。
一番大事なのはどうして戦争を起こしたかという経緯だ。大東亜戦争がなければ東南アジアの国々は、いまも白人の植民地だ。当時、日本軍が南進した際に抵抗したのは白人と華僑だけで、原住民のほとんどは反抗していなかった。人類史からみると日本はいいことをした。終戦当時、全世界には50数カ国しかなかったが、いまの国連には193カ国が加盟している。台湾を含めれば194カ国だ。そのことをよく考えてほしい。
中国には共産党があって共産主義がない
質問者:中国国内では貧富の差が激しく、暴動も多いが、このまま一党独裁は続くのか。
呉氏:いま、中国には共産党があって共産主義がない。華北と華中と華南では言語も生活習慣も何から何まで異なり、将来は非常に乱れてくるだろう。中国の将来の問題は、国際問題より国内のほうが大きいと思う。
質問者:台湾企業は中国で生産している。中国との関係が悪くなると、これまでのように低コストで物が作れなくなるのではないか。それに代わる産業の創出はあるのか。
呉氏:台湾は国としての規模が小さく、研究開発は非常に難しい。また、それだけの余裕もない。シンガポールで先端医療やバイオなどもやっているといっても、シンガポール自体に発明する能力はなく、中国と同様に、海外資本からノウハウを得ているに過ぎない。しかし、日本の技術の信頼性と台湾らしさを合わせれば何でもできる。
質問者:日本では菅首相の人気がどんどん下がっているが、呉さんからみた菅首相観はどうか。
呉氏:中国では、「あるべきことがそれにあらず」「やってはいけないものがそうなる」という言葉があるが、それが民主政治だ。数字の競争だから悪いところもある。「どうしてこんな人が」と思う人が当選する一方で、立派な人が落選する。でたらめな法案は通るがいい法案が通過しない。ただ、独裁政治よりはましだ。このシステムをどう改良していくかが、いまの時代に生きる我々が考えるべきことだ。
質問者:台湾のメディアの9割に中国資本が入り込み、馬英九氏のよいことばかり報道し、野党がほとんど取り上げられないと聞いているが、『自由時報』ではどうか。
呉氏:メディアは本来、中立で超然的であるべきだが、『自由時報』は中立でも超然的でもない。必ず台湾寄り(笑)だ!どの政党、人物もサポートはしない。中国資本が台湾に入ることは理解できるが、証拠はない。『自由時報』は必ず台湾の立場に立つが、残りのメディアはほとんど政府の補助をもらっている。当社は台湾トップの発行部数を誇り、残る主要紙5社合わせた数よりも多い。新聞事業のほかにも様々な事業を持っているが、政府の補助は絶対に受けない。私は日本精神を持っている台湾人だから!(場内笑)
質問者:先進国で日本だけが不景気のようだが。
呉氏:台湾の中央銀行の総裁はよくやっている。政治家というのは税率、利率、為替―この三つを常に頭に入れてコントロールすべきで、いつでも専門家に議論させ、国民に公表することが必要だが、このあたりの意識が日本の政治家には欠けている。
質問者:米国がこれまでの親中の態度を変え、台湾問題を含めて強硬策に転じるという話もある。
呉氏:当社のビルからすぐ近くに、広さ9.8ヘクタールの規模の米国大使館が建設中だ。あんな大きいアメリカが、こんな小さな台湾で…。これを見ただけでもその変化は見てとれる。これに加えて台湾と日本が協調すればこれ以上心強いことはない。そのうち私が神様になって、あなた方の健康と繁盛を祈ります(場内爆笑)。
世界で品格がよいと評価されるのは日本民族の歴史的な伝統であった。これまで戦後教育の影響で日本人精神はぶち壊されてきたが、東日本大震災で復活だ。さらに呉阿明氏の品格ある謙虚な姿勢に感銘を深くする。
リンク
時局心話會のホームページ