防衛省に対する三菱電機の過大請求を槍玉にあげて、「企業=悪」「防衛産業の闇」などと問題化する風潮があるが、事の内容は国防に関わる重要かつ特殊なもので、他の公共事業と同等に競争入札などをする次元ではないことを踏まえなければいけない。
ある意味では閉鎖的で一部の者たちの利権のように思われるが、国防産業は重要な機密を保持しながら新たな開発を繰り返すために長い経験と信用、実績の積み重ねをしてきた企業でなければいけない。開かれたかに見える競争入札で利益を失われては新たな投資ができず、防衛産業自体が衰退しかねない。

いつもながら桜林美佐の正論に想いを寄せたい。

JB PRESS【国防】桜林美佐
JB PRESS 2013.01.10 より抜粋

自衛隊の活動を支えていた
防衛関連企業の見えない「やり繰り」

さて、2012年末12月21日、防衛省から 三菱電機の過大請求事案についての報告書 が公表された。これを読むと、報道ベースでは見えてこない防衛産業の一面を窺い知ることができるのでここで紹介したい。

57ページにわたる報告書にはまず「はじめに」として、見過ごせない事実が記されている。それは「装備品等の過大請求事案は、本件を含め、これまでに累計26件発生しており・・・」ということ。

今回の報告書は、企業側のみならず防衛省側の問題点にも言及されている点で次につながるものと言えそうだ。

「工数付け替え等の動機及び背景」として、次のように綴られている。

防衛省は、原価計算方式で契約を行う際は、原価や経費について所定の率を適用して計算価格を算定している。この率は、各企業から製造原価や労務管理関係に関する非公開資料等を収集・分析して設定しているが、必ずしも企業で実際に発生する原価や経費をそのまま反映するものとはしてない。また、原価監査に当たっても、同様な計算方法を用いて支払金額を確定している。
このため、防衛省が受注者に支払う金額が、実際に履行に要した費用に適正利益を加えた額を下回る契約案件が発生する。

私が各所で「防衛産業はボロ儲けなどしていない」と言うと、現役自衛官からも「嘘だ!ちゃんと利益が出る仕組みになっているじゃないか」と反発されることがしばしばあるが、これで信じてもらえるだろうか。

「では、なぜ文句を言わないのか」という疑問には、報告書が明解に答えてくれている。

防衛部門の現場には、国の防衛のためとの意識もあって、赤字での受注や、履行の結果として赤字となることを容認する空気があったことが窺われた。
しかし他方で、当然のことながら全社的な立場から見れば、そのような形での損失の受け入れを許容する土壌はなかったとされ、また、これに対応して赤字原因となる目標を超過した工数を単純に計上しないこととすると、その分、見かけ上マンパワーに余裕がある形となり、実際には必要な人員の削減を招くとの懸念があった。
そして、赤字が発生した場合は部長クラス以上への説明を求められるなど厳格な損益管理が行われており、製造等の現場では、課内で工数の計上先を調整して収めることで幹部への報告・説明という『余計な仕事』をせずに済むならそれに越したことはないとの意識があったとされる。

つまり、国のためでありながら国に補填してもらえない赤字を、自分たちの社内の工夫でなんとか乗り切っていたということだ。それゆえに、携わった関係者には「不正行為」をしているという自覚があまりなかったようだ。

この報告書から読み取れるのは、もしまともな計上がされていたら、防衛部門の継続は許されなかった可能性があるということに、むしろ危機感を覚えるのだ。

「不正」の発覚により、防衛省はペナルティを課すことになるが、この「不正」は防衛省・自衛隊の活動を支えていたこともまた事実なのである。今回の報告書は、そうした実態を明らかにした点で意味合いは大きい(その割には、あまり取り上げられていないが)。

同社に限らず防衛産業が今でも事業を継続している理由は、「国のために」という思いが根底にあることは偽らざる事実だ。しかし、企業論理で説明すれば、高額な設備をムダにできないということもある。

多くの製造業などが仕事始めとなった1月7日、安倍晋三首相は経済団体などの新年会に赴き、いみじくも訴えた
「産業界が頑張りやすい環境を作っていくことで、日本の経済を成長させる!」

防衛産業は、日本経済にもそして日本の防衛にとっても欠くべからざる存在と言える。それだけに、今回のような問題によって萎縮するようなことがあっては全く国益に適わないと私は思う。
理不尽な環境下で継続してくれている防衛関連企業各社に対し、モチベーションの上がる政策(「言葉」ではない、具体的な施策)を待望して止まない。

 
 


桜林 美佐 Misa Sakurabayashi
1970年生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作した後、ジャーナリストに。
国防問題などを中心に取材・執筆。
<主な著書>
奇跡の船「宗谷」-昭和を走り続けた海の守り神
海をひらく- 知られざる掃海部隊』
誰も語らなかった防衛産業
日本に自衛隊がいてよかった 自衛隊の東日本大震災

オフィシャルサイト: 桜林美佐
ブログ: 桜林美佐の新・国防日記