「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年7月18日 通巻第3707号 を転載

中国がかかえる領土、領海紛争は二十ケ国に
ロシアだってダマンスキー島、大ウスリー島の解決をみたものの

尖閣諸島付近の日本領海を自由に「侵犯」している中国。手をこまねいてワシントンの反応をみている日本政府。そして保守系市民団体が漁船を大量にかりて、尖閣周辺でデモ。石原都知事の呼びかけに応じた尖閣諸島購入資金キャンペーンはすでに予算を超えるほどの金額が集まった。

或る意味、中国の短絡的な挑発行為が日本および日本人をして、久しく眠ってきた健全なナショナリズムと大和魂を覚醒させた。
だから筆者はまた言う。「中国よ、反日有り難う」

中国の世論は「日本をやっつけろ」。これはネチズンの不満をガス抜きしているだけで、暴動、学生運動の広がり、陳光誠事件、湖南省の活動家の「自殺」。チベット僧侶の夥しい自焚(焼身自殺)などの矛盾から目をそらすため。

いつも政治的に追い詰められると焦燥感から日本批判をネットに書き込み自由とする。これは「五毛幇」を駆使しての「やらせメッセージ」である。また同時に軍人のタカ派連中にも「尖閣どころか琉球も回収せよ」などと言いたい放題を黙認している。
胡錦涛政権は軍を完全にコントロールできないがゆえに起きている問題だろう。

香港の反日活動家数人が漁船をチャーターして、尖閣に上陸を計ろうと計画しているのも、香港では反中国抗議行動に40万人があつまり、かたや尖閣諸島問題では数人か、せいぜいが十数人規模。明らかに軍と特務、公安の「やらせ」だからだ。

さてロシアの『プラウダ』(英語版、17日)に面白い記事が配信された。
中国は日本の尖閣諸島ばかりか、近隣およそ二十ケ国と領土、領海紛争をこじらせており、外交的に行き詰まりをみせていると分析しているのだ。

軍事同盟国のパキスタンや上海協力機構のメンバーでもあるキルギス、カザフスタン、庇護国だったネパール、アフガニスタン、ミャンマーとも水資源をめぐる領土紛争にくわえ、ブータンの国土は四分の一近くがいつの間にか中国領に編入されていた。

▼中国は個別撃破の考え方で固まっている

仮想敵国インド、ベトナムもしかり。
そして南沙、西砂、中沙でフィリピン、台湾、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールが、中国との対峙関係に加わる。ASEANは共同して、領土紛争の話し合いのフォーラム設置を呼びかけたが、中国は集団訴訟的な交渉ばかりか、フレームワークつくりの話し合いに一切応じず、あくまで個別突破の方針をかえていない。

プラウダは尖閣を狙う要素は資源であるものの、「背後にアメリカが控えて、軍事条約のある韓国と日本には本気で軍事衝突をやる計画はないが、他の国々には個別であたるのが中国の方針」と解説し、すでに海南島を拠点に38隻の新造潜水艦が深海を遊弋している事実を指摘している。

結一例外的に中国がクレームを発しなくなった暗礁がある。
東シナ海、中国と韓国の中間にある離於島(IodoIslands)の蘇岩礁だ。2003年に韓国は、この場所に突貫工事で海洋観測基地を設立し、ヘリポートも完備させてしまったからだ。

ロシアとはダマンスキー島で武力衝突を繰り返したが、この中国名「珍宝島」ばかりかアムール河の巨大な中州のうち、タラバロフ島と大ウスリー島の337平方キロをロシアは2005年に中国に割譲した(中国が買収したが金額は秘密とされている)。

その国境の都市、撫遠に行ってみて驚いたのは、中国側から島に橋を架け、遊覧船を浮かべ、中国側の都市は一大リゾート、あたかもサンクトベテルブルグのような帝都のようにぴかぴか輝いていたことだった。

 
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