「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年6月29日通巻第3699号 を転載

マカオにギャング団復活の兆し、
三合会(和勝和、14k、新義安)内で乱戦
カジノ利権がこじれたか。
ラスベガスの五倍の売り上げというドル箱の博打場

マカオに乱立する豪華なカジノ・ホテルは老舗リスボア、香港系のギャラクシーから、本場ラスからやってきてサンズ、ウィン、そして欧州系のMGMなど24もある。とてつもない規模で博打場の雰囲気も凄まじいことになっている。
1999年までマカオのカジノと言えばスタンレー・ホー(何鴻栄)一族の独占、リスボア・ホテルしかなかった。

2002年に新築カジノの入札が行われ、外国資本の参入が認められた。以後、マカオは世界一の博打場になった。
24時間、きらびやかなネオンが輝き、町は不夜城。ホテル内のカジノでははてしなく勝負が続き、チップが飛び交い、小銭をもうけるとロシアから出稼ぎに来ている美女を買うか、女性ならアーケートに並ぶプラダとか、グッチの店へ飛び込んで買い物。
まけると近くに林立する「押(質屋)」へ宝石やらバックをもって飛び込み、続きをやる。

ちびちび賭ける人たちは食堂でも朝までトランプ・ゲームに励みつつ、一夜があけると大半はすごすごとホテルからの無料バスで中国の国境・珠海へ向かう。
虚栄の市などという比喩は生やさしく、カネのためには生命を賭けるちんぴら、殺し屋もうごめく。

北朝鮮の将軍様の長男=金正男は、マカオに特別室をしつらえていたが、どうやらホテル代が滞り、中国の何処かへ放浪の旅を続けているらしい。
マカオの豪華ホテルには、この類いの放蕩息子やら、製紙会社の御曹司らがつかうVIPルームがある。VIPの稼ぎだけでも250億ドル。

▼ラスベガスの五倍の売り上げになったマカオ

2005年、マカオの寺銭(胴元の手数料)の売り上げが52億ドルを記録してラスを抜いた。
と驚くのは早かった。翌06年に64億ドル、07年には軽く100億ドルを突破、2011年にはマカオ全体での稼ぎが340億ドル、じつにマカオの税収の四分の三、ラスベガスの五倍強になる。

これほどの金の唸る場所を中国共産党が手離す筈がないだろう。江沢民派、団派、太子党入り乱れての利権獲得戦争が花開いたのだ。

景気後退とともに、昨今その勢いこそ落ちたが、まだまだギャンブル熱は留まるところを知らない。中国人は基本的に賭け事が好きである。なにしろ年間1500万人以上が中国大陸から押し寄せ、この列に香港からも年間、五百万人。あまつさえ東南アジア諸国からの博徒も集結する。マカオ国際空港に降り立つ外国人は年間五百万人を突破したが、断トツは韓国から。ついで台湾だそうな。
ちなみに日本からも年間40万人弱がマカオへ観光に行くので第三位、ただし日本人は若い女性が圧倒的で、博打は冷やかし程度、もっぱらポルトガル料理とワインというグルメ嗜好と世界遺産見学。行程は殆どが日帰りか一泊。

事件が起きた。
マカオのリゾート地タイパ島に「新世紀ホテル」を経営するNG・マンソン(音訳不明)社長は、ギリシアにも「神話エンターティンメント」なる企業に投資しており、世界あちこちでビジネスを展開している。

そのNG社長(65歳)が6月24日、自分のホテル(新世紀)で三十歳代の女性と食事中に六人の暴漢に襲われ重傷を負った。故意に急所を外しての襲撃はプロの仕業、なにかの警告の意味が含まれるという。97年にも同ホテルはマフィアの襲撃を受けたうえ、やくざの抗争舞台となって客足が遠のいたことがあった。

その時のNGのライバルがマフィアの別派の首魁=王某、マネーロンダリングなどの罪で起訴され収監されたが、昨師走に出所した。そこでNG襲撃はやくざの抗争の再燃と言われたが、NGには他にも裁判沙汰の難題を多く抱え恨んでいる者が多い。

マカオのギャング団は返還直前の99年まで凄まじい抗争を繰り広げ、真昼からピストルを撃ち合い、ダイナマイトを投げ合うという香港のヤクザ映画そのものの血みどろの抗争が続いていた。
1999年、マカオ返還とともに、中国人民解放軍が進駐するにおよんで、しばし沈静化してきた。

▼広東はもともとギャング、青幇、紅幇、マフィアの三合会、洪門会の本場だった

14kや新義安などが集結する香港の古巣へ戻ったか、マフィアの本場=広東省の地下へ潜ったとされた。
広東のマフィアは清朝末期、漢族の栄光を回復せよとして出来た結社が母体で、そのご国共合作、内戦の間にも党派闘争を繰り返し先鋭的になった。

現在の広東マフィアは14K,新義安、和勝和などが有名で、殺人、麻薬、売春、恐喝、高利貸しなんでもありの世界。これらを総称して「トライアド」(三合会)という。香港だけで57団体が確認されており、その凶暴性は日本のやくざを遙かに超えて、イタリアのマフィアもびっくり。

しかし中国政府はマカオの「安全」「安定」を強くのぞんでおり、なぜなら民衆の不満のガス抜きのために絶対に博打場は必要な上、高官らにとってはマカオ出張でギャンブルに勝つと(たいがいは意図的に勝たされることになっているのだが)、領収証をもらえる。
つまり合法の賄賂受け取りとなり、この利便性を失いたくないという思惑も強く働いている。

マカオは香港と同じく「一国二制度」の特別行政区。マカオ憲法は全人代できめた間接選挙で、もちろん行政長官は北京寄りとなる。
経済繁栄の裏側の実態である。

 
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