山本善心の週刊木曜コラム〈375号〉 を転載

李登輝台湾元総統の単独インタビュー(3)

時局心話會 代表 山本 善心

山本善心:我が国の台湾統治政策は、待遇の面で、朝鮮(当時)とは大きな差別化がありました。たとえば、給与や恩給、退職金を一つ例にとりますと朝鮮は日本と同じ条件でしたが台湾は半額になっています。それから小中学校の校長先生も朝鮮ではたくさんの人が校長に就任しています。台湾は1千校以上のうち、たったの5人くらいしか居なかったと聞いています。このように万事が朝鮮を優遇して台湾との差別化があまりにも大きすぎる、ということで台湾の方々に不満がなかったんでしょうか。さらに名前を日本名に変える「創氏改名」運動ですが、韓国人は強制的に名前を変えさせられたということなんですが、90%近くの人が競って日本名に変えたという当時の記録が残っています。ところが台湾の方は1割くらいしか名前を変えなかった。このような違いが植民地時代にあります。李先生はこれらの差別化問題をどのように解釈されていますか。

李登輝:この問題はね、日本人に誤解があると私は思っています。何故かというと台湾というのは結局1895年以前は清国の領土で化外の地でした。台湾を統治する政府も無く、社会は乱れに乱れていました。人民は本当に不安でしょうがない。そのうえ経済も非常に遅れていました。
ところが、日清戦争が終わり、下関条約で中国の代表として李鴻章は伊藤博文と会議を開いた。そこで、清国の李鴻章は「台湾というところは3年で小乱、5年で大乱が起きて非常に困るところだ。もうこういうところはいらないから、日本にあげたいけどいるかどうか」と伊藤博文に言ったら「いいよ、私もらいます」と言ってこれで決まったわけですよ。
それ以来、日本は短期間で台湾に近代社会を創り上げました。だから、月給も差別があるし就職するにも韓国と差別があったのは本当だけど、非常に安定した社会となったので、逆に台湾人は解放されたと喜んだのです。ところが韓国はどうかというと、韓国は実は日本の植民地ではないんですよ。日本のみなさんは植民地と言っておりますが、韓国と日本は明治45年、合併したんですよ。チェコとスロバキアが一つになって、チェコ・スロバキアになったのと同じです。ところが韓国は豊臣秀吉が朝鮮討伐をやる以前から国としての国柄を持っていた。自国の文化もあるし文字もあった。しかし、日本は結局韓国を一つの国として取り扱わなかったんだね。ただ李氏の王室関係者を皇族にしただけで、植民地みたいな扱いをした。お金とか待遇とか同じようにしてもこれだけで韓国人は満足しませんよ。
従って、日本はコリアを日本の植民地だと主張しているけれど、植民地じゃない。韓国という一つの国だから、国として大事に取り扱っていくべきだった。ここらへんコリアの人民は台湾の人民と違った気持ちを持って日本に向かってくる原因があると思う。まあ当時の日本人がもう少し、韓国人の気質を考える必要があり、韓国人を尊重してあげることが大事だと思います。

宇田川敬介:李先生は2007年の6月7日、先の大戦で日本兵として戦死されたお兄さまが祀られている靖国神社を参拝されております。そして日本での記者会見で「靖国問題は中国、韓国が自国の問題を処理できないがゆえに作り上げられたと思っている」と雑誌で述べられていますが、あらためて靖国神社に関してご意見を伺いたいと思います。

李登輝:いま私のところに東大の教養学部の学生がよく来ますよ。この前来たグループは、若い人が中心でしたが、「李さんに聞きたいことがあります。李さんの兄さんは李登欽といって靖国神社に祀られている。おかしいですね、どうして台湾人である李登欽が靖国神社に祀られているのか。私はどうしてもわかりません」と言っていましたよ。
私は彼女に言った。「あなたの学校で日清戦争を習ったことがありますか? 学校の歴史の授業で習いましたか?」。彼女はあまり覚えていないと言っていました。それが今の教育だなあ。結局日本は子供たちに真実の歴史を教えていないからこうなるんです。日清戦争によって台湾は日本の領土になり、台湾人は日本人ではないけれども日本の国民としてやってきた。 そういえば、日本の新聞記者にも少し頭が変な人がおりましたね。新聞記者から「台湾人なのに靖国神社を参拝するなんておかしいじゃないですか」と言われました。その言葉は私自身気に障ったので、だから私はこう言ったんですよ。私は何人であるというよりただ一人の人間として参拝した。私の家には兄貴の遺骨も位牌も何も残されていない。しかし、靖国神社に祀られている。それは大切なことなんだ、と言ったんです。実際台湾にも忠烈祠というのがあって、中国大陸の兵隊とか台湾と全然関係ない人も忠烈祠に祀ってある。私、毎年2回、春と秋にお祀りしてきます。私と関係ない人であっても、国のために亡くなった人を祀ってあるのは、人間として大事な事だと思っています。
私は彼に言った「私の兄貴はあのときは日本人であったが、今台湾は日本の領土ではない。日本人でない李登輝が靖国神社を祀る、これはね、人間としてあるべきことでしょう」。ところで、「中国や韓国が靖国を問題にしだしたのはどの総理大臣だったか覚えてますか?」

宇田川敬介:中曽根総理の時だったと思います。

李登輝:結局ね、彼は国としての立場をはっきりと表明出来なかったんだ。日本は戦争に負けたからといって国が無くなったわけではない。そこらへんの認識が指導者として欠けていた。戦後そういう考えがずっと続いている。何か言われても日本は戦争に負けたから国が無いと思っている。戦争に負けたというが、そのときの政府が結局誤った政策をとったこともあろう。いろんなことをやったかもしれない。それで戦争に負けた。これ自体は日本人が無くなったとか国が無くなったということを意味しない。やはり国は国。そうした意味で今の日本の指導者に対して私は不満がありますよ。靖国神社のことだけでなく、南京事件のことだって同じです。南京事件というのはこれは全くの嘘なんだよ。もともと南京に37万人という人口はいなかった。にもかかわらず、中国は何十万もの中国人が殺されたといっているけれども、嘘ですよ。この数字はどこから来たのか。この事件はあまり詳しく議論されていない。
多少の行き過ぎはあったかもしれないが、そんなことをいってたら、アメリカのパキスタンの問題とかアフガニスタンの問題とか、どういうふうに説明するんだろう。こういう事件で一番困るのは日本に左翼が多すぎるということですね。

山本善心:戦争中のことを善悪で論じることはナンセンスですね。戦場は「狂気の沙汰」の世界ですからね。次は李先生が指摘されたように日本はリーダーが不在なので、今日の閉塞状況を迎えています。リーダーの条件についてお話を伺いたいと存じますが。

李登輝:そうなんですね。あえて指導者の条件をいいますと、まず信仰を持たなければならない。大事な事は信じることです。
第2にはいつまでも権力を握ってはいけない。権力があるからいろんなデタラメなことをやりたがる。
第3は、公と私の区別をはっきりさせる。元々日本の武士道では公と私がはっきりしていました。公の問題で私のことをやれば切腹しなければいけないんです。
第4は、誰もやりたくないことを喜んでやっていく。
第5は、カリスマの真似をしない。新聞や雑誌でいいことばかりを並べて、世論に迎合する。それで自分がいいことをしたように見せかける。そんなことはやめろと言いたい。国民に対してはいつも誠をもって対処しなくちゃいけない。
私は日本の国民に直接お話するということはあまりありませんが、今回の東日本大震災において、日本人は世界で一番礼儀作法、道徳的な質の高さを示したと思います。あれだけの死傷者が出ても国民がきちっと社会の秩序を守り、自分のやるべきことをきちっとやって真面目に努力している。日本人の良さはそこにあると思います。ただし日本人はあまりに人がよすぎるから指導者を選ぶことをもっと真剣にやりなさい。私が言いたいことは以上がすべてです。

終わりに:今回は李登輝元総統と本音で語るインタビューを企画しました。
約2時間30分の間たくさんのお話を伺いましたが、一部しか紙面に掲載できないのが残念です。内容は我々の期待通りで4月11日放映されたBS11の放送では李先生の飾らない真摯なお姿と情熱に共鳴し感動された視聴者からたくさんのお言葉を頂きました。力強い日本の再生には、過去・現在に起こった問題について事実と根拠に基づく真実の意見を発信したいとの使命感が募る昨今です。

 
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