産経ニューストピック:放射能漏れ 2011.3.20 を転載

被曝覚悟の350メートル 消防隊見守る妻「日本の救世主に」

見えない「敵」との戦いだった。福島第1原発事故で19日未明の放水活動を行った東京消防庁ハイパーレスキューの第1陣が19日夜に帰京。同庁で会見した。廃虚と化した原発内で被曝(ひばく)しながら、ホースを手作業で広げる決死の作業。隊長らは「無事にミッションは達成した」と胸を張る一方、「隊員の家族には心配をかけた」と涙で言葉を詰まらせた。

ハイパーレスキューの冨岡豊彦総括隊長(47)が、福島第1原発に最初に足を踏み入れたのは18日午後5時ごろ。特殊災害対策車でどのように安全にミッションをこなせるかを探るのが目的だった。

当初の東京電力側からの情報では、水をくみ上げる海側までは車で近づけるはずだったが、原発内はがれきで埋まり、進入はすぐに阻まれた。

「ホースを手で広げるしかない」。午後7時半から始まった作戦会議。がれきを避け、海から放水車までホースを延ばすには被曝の危険が増す車外で作業を行うしかないという結論に達するまで4時間かかった。

海水を1分間に約3トン送り出すホースは太くて重い。ホースの重さは50メートルで約100キロ。それをロープで引っ張り4人がかりで運ぶ。敷設は約350メートルで、足場は悪く、危険な作業だった。作戦の決行は高山幸夫総括隊長(54)ら約40人の隊員に委ねられた。

「危険度を熟知する隊員の恐怖心は計り知れないが、拒否する者はいなかった」(東京消防庁の佐藤康雄警防部長)。だが、防護服の着用に普段の3倍以上の時間がかかるなど、緊張の色を隠せなかった。

約20人が車外に出ての作業。車外作業者には、放射線量を測る隊員から危険度を知らせる声がかかった。「常にそばでバックアップしてくれる仲間がいたからこそ達成できた」と高山隊長。作業は約15分で完了し、屈折放水塔車は白煙を上げる3号機に向け、19日午前0時半、放水を開始。20分で約60トンを放水した。

家族には心配をかけたという思いがある。高山隊長は任務に出る前、「必ず帰ってくるから安心しろ」と妻にメールを送った。妻からは「信じて待ってます」と短い返信があった。佐藤部長は妻に福島行きを伝えると、「日本の救世主になってください」と一言書かれたメールが送られてきたという。

会見で、冨岡隊長は「国民の期待をある程度達成できた。充実感がある」と語る一方、作戦に従事した隊員について「家族には本当に申し訳ない。おわびを申し上げたい」と涙ぐんだ。

冨岡隊長は「家に帰ったら家族と酒を飲みながら反省会をしたい」と笑い、佐藤部長は「恐怖心を克服し任務に当たってくれたことに敬服の念を抱いている」と隊員らをねぎらった。